第6回 映画スターさながら! シリアの貴公子(1925年)

 まるで映画のワンシーンのような写真です。古い映画『アラビアのロレンス』を連想した人もいるのではないでしょうか。

 短剣を片手にポーズをとり、質のよさそうな被り布を輪でとめています。被り布はベドウィン(アラブ系の遊牧民族)の伝統だったものが、1920年代にアラブ世界に広まりました。模様は無地や格子柄が多いのですが、この男性はとてもカラフルで高級そうな布を使っていて、高い地位にいることをうかがわせます。

(c) JULES GERVAIS COURTELLEMONT/ National Geographic Stock(写真クリックで拡大)

 この写真は「ナショナル ジオグラフィック」1925年11月号の特集「太陽に彩られた近東の風景」に掲載されました。

 写真の説明には「ダマスカスのエミール」とあります。エミールとは、アミールともいい、アラビア語で「長」を意味します。転じて、歴史的には支配層の称号となりました。当時の記事で「エミール」と言われているということは、王族や貴族、少なくとも何かの「長」という地位をもった人物だということになります。

 ちなみに、エミールが統治する国は日本語で「首長国」、英語で「エミレーツ」です。アラブ“首長国”連邦の航空会社が「エミレーツ航空」と名乗っているのはそういうわけなのです。

 写真が撮影された都市ダマスカスは、長い歴史を持つシリアの首都です。この写真が撮影された当時、シリアはフランスの委任統治領でした。特集記事には、緑豊かな中庭でくつろぐ女性たちや、特産品のブドウやスイカを売る女性、色鮮やかな服装の大人や子どもが写っています。現在、シリアでは騒乱が広がり、多くの人が難民となり、世界遺産も大きな被害を受けていますが、100年前の服装や生活からは、早くから文明をはぐくんだ土地の豊かさが見てとれます。

 次回はボリビアのチョリータをご紹介します。




 この連載の写真は、下の写真集に収録されています。

『100年前の写真で見る 世界の民族衣装』(ナショナル ジオグラフィック編、日経ナショナル ジオグラフィック社)

ナショナル ジオグラフィックの貴重なアーカイブから、およそ100年前の世界の人々の服装を紹介。Tシャツとジーンズに駆逐される以前の、リアルな日常服としての民族衣装を212点収録。

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