凍てつく南極にやって来た筋金入りのクライマーたち。大自然の猛威に立ち向かい、未踏峰の頂へと挑む。

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南極の未踏峰に挑む

凍てつく南極にやって来た筋金入りのクライマーたち。大自然の猛威に立ち向かい、未踏峰の頂へと挑む。

文=フレディ・ウィルキンソン/写真=コーリー・リチャーズ

 日本では富士山登山ブーム、世界的にはエベレスト登山ブーム。いっぽう、南極では、昭和基地の1000キロ西にある誰も登ったことのない山を目指す男たちがいた。登山家のフレディ・ウィルキンソンが体験をレポートする。

テントごと吹き飛ばす「滑降風」

 私はこれまでに何度も、すさまじい強風を経験してきた。夜のヒマラヤ山脈に吹きつけるジェット気流や、恐ろしいうなりを上げるパタゴニアの嵐……だがこの日の風は、そのどれよりもひどかった。

 私は南極大陸のウォールタート山地のただ中にいた。テントの両側には二つの岩塊がそびえ、荒涼とした風景がどこまでも広がっている。
 ここから80キロ南へ行くと、南極台地の端にたどり着く。南極大陸内陸部の大半を占める広大な台地だ。その台地の斜面を吹き降ろすのが、滑降風(カタバ風)と呼ばれる強風である。

 強風が再び襲ってきた。テントのポールが内側にしなり、銃声のような爆発音とともに頭上の布地が破れる。次の瞬間、私はテントもろとも宙を舞っていた。強風に押されて斜面を転がったかと思うと、風よけ用に築いておいた石の壁にたたきつけられ、さらに壁の外側へと吹き飛ばされた。本やカメラの機材、汚れた靴下などがテントの中に散乱した。

 首と肩に鋭い痛みが走る。私はテントに開いた穴まで這っていき、破れた布地をつかんで大きく引き裂いた。暴風の中に頭を突き出すと、雪煙と砂が目を直撃した。私は思わず叫んだ。

「助けてくれ!」

 ――私は登山を始めて10年ほどになるが、嵐でテントを失くしたことは一度もない。だが今回、私たちはすでにテントを三つも駄目にしていた。二つは雪に埋もれ、一つは私がテントもとろも強風に吹き飛ばされた時に壊れてしまった。あの時、助けを求める私の叫び声を耳にしたリベッキーは笑いながら、ずたずたになったテントから私を引きずり出してくれた。

 今回の遠征で何より身にしみて学んだのは、たとえ好天の日でも、滑降風は何の前触れもなく突然襲ってくるということだ。私は不安を振り払った。岩の裂け目を伝って岩塊を乗り越え、その先の平坦な岩壁をよじ登る。ついに私は頂上に到達した。

※ナショナル ジオグラフィック9月号から一部抜粋したものです。

編集者から

 筆者は登山家でもあるフレディ・ウィルキンソン。ロッククライミングの記事は2011年5月号「ヨセミテ国立公園 巨岩の絶壁に挑む」でもご紹介しましたが、今回はただのクライミングではありません。南極大陸ですから、寒さだけでも相当なもの。南極名物(?)の滑降風(カタバ風)も彼らの行く手を阻みます。高さ350メートルの岩棚という信じられない場所で寝泊まりする様子は、電子版掲載の写真でご覧いただけます。(編集M.N)

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