タンザニアのセレンゲティ国立公園で、群れの支配権をめぐって、命を奪い合う雄たち。その生と死の物語から、百獣の王ライオンの過酷な日常が浮かび上がる。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ライオン 生と死の平原

タンザニアのセレンゲティ国立公園で、群れの支配権をめぐって、命を奪い合う雄たち。その生と死の物語から、百獣の王ライオンの過酷な日常が浮かび上がる。

文=デビッド・クアメン/写真=マイケル・ニコルズ

 ライオンの寿命をご存じだろうか。
 野生では、健康でたくましい雄ライオンは、運が良ければ最長12歳くらいまで生きる。雌はそれよりも長生きで、19歳という高齢まで生きた雌もいる。しかし平均寿命は、はるかに短い。生殖年齢に達する前に死ぬ確率は極めて高く、生まれた子の半数は2歳までにこの世を去る。たとえおとなになったとしても、平穏な死を迎えられるとは限らない。

ライオンだけが、なぜ群れるのか

 トラやピューマは群れをつくらない。ネコ科の動物で社会性をもつのは、ライオンだけだ。雌は「プライド」と呼ばれる群れをつくり、雄はその支配をめぐって他の雄と同盟を結ぶ。プライドの規模や構成はさまざまで、生存と繁殖に最適な形が選択される。
 ライオンにとって、群れはなぜ重要なのか。ヌーのような大型動物を倒すために、集団で狩りをする必要があるからか。子を守るのに有利だからか。それとも縄張り(テリトリー)をめぐる争いでは、集団防衛が有効だからなのか。主にこの40年ほどの間に、野生ライオンの社会行動について詳細なデータが蓄積されてきたが、重要な発見の多くは、タンザニアのセレンゲティでの継続的な調査からもたらされた。

 セレンゲティ国立公園は、ケニアとの国境近くのサバンナに、およそ1万5000平方キロにわたって広がっている。
 英国の統治下にあった1920年代に指定された猟獣保護区を基に、1951年に国立公園に指定された。公園の西にある猟獣保護区や、ンゴロンゴロ保全地域、ケニアのマサイマラ国立保護区などを含め、セレンゲティとその周辺は広大な野生動物の生息地となっている。

 この一帯では、ヌーやシマウマ、ガゼルの大群が雨期の後に茂る草を求めて、季節的な大移動を繰り返す。加えて、ハーテビーストやトピ、リードバック、ウォーターバック、エランド、インパラ、スイギュウ、イボイノシシなど、比較的狭い範囲に暮らす草食動物も多い。これほど見晴らしの良い平原に、これほど豊富に草食動物がいる場所はアフリカ大陸でもここだけだ。
 セレンゲティはライオンにとっての理想郷であり、ライオン研究者にとっても理想的なフィールドとなっている。

 野生動物研究の権威であるジョージ・シャラーがセレンゲティを訪れたのは、1966年のこと。ライオンの捕食行動が草食動物の生息数にどんな影響を及ぼしているかを調査するためだ。
 シャラーは3年3カ月のフィールド調査で膨大なデータを集め、その成果をまとめた著書『セレンゲティライオン』は、野生ライオンの研究に欠かせない文献となった。後に続く若手研究者たちの精力的な調査で、プライドを乗っ取った雄ライオンの子殺し行動や、雄同士の同盟関係などの実態が、少しずつ明らかになっていった。
 セレンゲティでの研究は、一つの動物の継続的な野外調査としては屈指の長さを誇る。「長期的なデータを集めることで、実際に起きていることが見えてきます」とシャラーは言う。

 死は、野生で「実際に起きていること」の一つだ。ライオンの死に関するデータを蓄積していけば、何らかのパターンが浮かび上がり、百獣の王の現実が見えてくるだろう。

※ナショナル ジオグラフィック8月号から一部抜粋したものです。

編集者から

 これまで2001年6月号の「アジアに残る最後のライオン」や2002年4月号の「たてがみのないライオンの謎」のように、ちょっと変わったライオンの特集はありましたが、今回のような直球勝負の特集は、日本版の創刊以来初めてです。本誌のベテラン写真家マイケル・ニコルズによるド迫力の写真はもちろん、セレンゲティの雄ライオンたちの過酷な日常を描いた本文もぜひ読んでみてください。
 8月中旬リリースのiPad版には、かわいい赤ちゃんライオンの動画なども収録予定です。電子版購読中の皆さまは、こちらも楽しみにしていてください。(編集T.F)

この号の目次へ

最新号

ナショジオクイズ

米国アラスカ州に暮らす先住民ユピックの人々。彼らが登っているモノは何でしょう?

  • 物干し台
  • 手作りの遊具
  • 獲物を探す見張り台

答えを見る

ナショジオとつながる

メールマガジン無料登録(週2回配信)

メルマガ登録の詳細はこちら

ナショナル ジオグラフィック日本版 バックナンバー