第1回 人類進化の「常識」を覆した“小さな巨人”、フローレス原人

 島嶼化というのは動物学の概念で、その名の通り、孤立した小さな島で動物が矮小化したり、時には巨大化したりする現象をさす。島国に住むぼくたちは実例をいくつか知っているはずだ。例えば、屋久島のニホンザルやシカは、九州や本州のものより小さい。巨大化の方は、それほど顕著な例は身近にないものの、ニュージーランドの絶滅した鳥モアが体高3メートルにもなったことを思い出すとよいかもしれない。フローレス島は、この島嶼化の顕著に起きたところで、小さなゾウや巨大なハゲコウなどが闊歩する不思議世界だったのである。そして、その中で、フローレス原人は、人類では予想もしていなかった極端な矮小化を経験した。

 人類進化の「非常識」ここにきわまれり。

 それゆえ疑義があったわけだが、海部さんの研究は否定的な見解に対して、「そんなことはない」と述べるものだった。発見者であるオーストラリア・インドネシアのチームから、頭骨の研究を任されて、明らかにした。

 具体的には、フローレス原人の脳サイズの測定を、従来、他の化石人類に対して行われていたものよりはるかに厳密な方法で行った。

フローレス原人の存在は何百万年にわたる人類進化のなかでどんな意味を持つのだろうか。(写真クリックで拡大)

つづく

海部陽介(かいふ ようすけ)

1969年、東京都生まれ。独立行政法人国立科学博物館 人類研究部 人類史研究グループ・研究主幹。東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 進化多様性生物学大講座・准教授。理学博士。1992年、東京大学理学部生物学科(人類学専攻)を卒業。95年、同大学院理学系研究科博士課程を中退し、国立科学博物館人類研究部研究員となる。2007年、東大准教授を併任、現在に至る。「アジアにおける人類の進化・拡散史の研究」で12年度の日本学術振興会賞を受賞。『人類がたどってきた道―“文化の多様化”の起源を探る』(NHKブックス)の著書、『人類大移動 アフリカからイースター島へ』(朝日選書)の共著がある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、独特の生態系をもつニュージーランドを舞台に写真家のパパを追う旅に出る兄妹の冒険物語『12月の夏休み』(偕成社)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)。
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