第10回 ラスト20キロ。渡部純一郎の意外な提案

2011年の航海を始める前にクルー全員で集合写真を撮った。マンダール人6人、日本人4人。(提供:関野吉晴)(写真クリックで拡大)

 ゴールの石垣港を目前にして、すんなりと進まなかった。残るは直線でおよそ20km。困難なルートでもないし、潮の流れも複雑なわけではない。しかし南風が強くて動けなかった。一瞬風が弱まることもあるが、また吹き始める。安定しない。

 昼でも夜でも、いつでも出発できる態勢にして、待機することにした。私たちのダブル・アウトリガーカヌーは、横揺れは少ないものの、強い潮風に吹かれると夏の沖縄でも寒い。シートをかぶって、風が弱まるのを待った。

デッキ上の異文化共生社会

 縄文号とパクール号のデッキは、実質的には四畳半から六畳ほどしかない。限られたスペースで世代も文化も言葉も民族も異なる10人が生活する異文化共生社会だ。慣習の違いや個性の違い、またそれによるトラブルも多かった。

 たとえば夜、カヌーで寝るときは、港や陸地から少し離れた場所に錨を下ろした。私たち日本人はそのまま寝てしまうことが多かったが、マンダール人クルーは陸に民家が見えると、泳いで井戸を借りに行った。水浴びをしてから泳いで戻ってくるのだ。せっかく水浴びをしてもまた海水に濡れるのだから同じじゃないかと思ったが、イスラムの礼拝の前には水浴びして身体を清めなければならない。それが習慣になっているのだ。身体のどこから洗い始めるか、順番まで決まっている。