商業登山の広がりで、危険なまでに混雑するエベレスト。世界最高峰の惨状に解決策はあるのか。

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満員のエベレスト

商業登山の広がりで、危険なまでに混雑するエベレスト。世界最高峰の惨状に解決策はあるのか。

文=マーク・ジェンキンス

 今、私たちは標高8230メートルの高所で、ほかの登山者と接触しそうな過密状態のただ中にいる。これでは体力や能力と無関係に、全員が同じペースで前進を続けるしかない。

 真夜中近く、見上げると、一列に連なったヘッドランプの光が暗黒の空へと続いていた。眼前にそびえる斜面を100人以上がゆっくりと登っていく。

 ある岩場では、ひどく曲がった1本のスノーピケットが氷に打ち込まれ、くたびれたロープを支えていた。このロープを頼りに、少なくとも20人が登攀中だ。

 万が一、このピケットが抜けたら、全員が転げ落ちて死ぬだろう。

2時間を超える登頂待ちの列

 私たちの今回の遠征は、1963年の米国エベレスト遠征隊の快挙から50年を記念して企画された。

 だが実際に私たちが目にしたエベレストでは、登山をとりまくさまざまな問題が大きなひずみを生んでいた。

 今から50年前、1963年の登頂成功者はわずか6人だったが、2012年の春は500人を超えた。

 私が登頂した5月25日、山頂には人々がひしめき、身の置きどころもなかった。眼下のヒラリー・ステップでの登頂待ちは2時間以上に及び、列をなした人々が寒さに凍えながら体力を消耗していた。ヒラリー・ステップは登頂までの最後の難関、高さ12メートルの岩壁だ。

 私は今回の登頂で、4体の遺体を見ている。好天でもこのありさまだから、1996年にあったような嵐に襲われでもしたら、多数の死者が出ていただろう。

登頂できて当然という考え違い

 エベレスト登頂は昔から登山家の“勲章”だった。だが、4000人近くが登頂し、複数回登る人々もいる現在、その意味は半世紀前とは違ったものになりつつある。

 今や山頂を目指す人の約9割がガイドを雇った“お客さま”登山者で、その多くは登山の基本的な訓練を受けていない。彼らのなかには、3万~12万ドル(約300万~1200万円)もの大金を支払うからには、山頂に到達できて当然という考え違いをする者も少なからずいるようだ。

 確かに大勢が登頂を果たしているが、その代償は大きい。“ノーマルルート”と呼ばれる北東稜と南東稜は、登山者の数が多すぎて危険なうえに、ごみや汚物だらけで、その惨状は目を覆いたくなるほどだ。

 登山者の遭難死も相次ぎ、2012年には私が南東稜で目にした4人を含めて、全部で10人(シェルパ3人を含む)が死亡している。

 この世界最高峰は、明らかに荒廃している。だがエベレストをよく知る人々に話を聞くと、今ならまだ改善の余地があるという。

※ナショナル ジオグラフィック6月号から一部抜粋したものです。

編集者から

 昨春のピーク時には1日に234人が登頂したという、世界最高峰の混雑ぶりにはあらためて驚かされます。正確な気象情報が得やすくなったことで登頂日が集中し、かえって混雑による危険が増大してしまうとは……。記事では、エベレストが直面する諸問題への解決策を探ります。

 ナショジオの支援した登山隊は昨春の遠征時に、エベレストから写真共有サービス「Instagram」などを使って、現地での日々をレポートしました。誌面に掲載された山頂からのパノラマ写真は、なんと女性隊員がiPhoneで撮ったものです。電子版では、隊員が投稿したその他の写真もご覧いただけます。(編集H.I)

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