人間が多くの危険を冒してまでリスクに挑むのはなぜか。謎を解くカギは、脳の神経伝達物質にあった。

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リスクの先へ

人間が多くの危険を冒してまでリスクに挑むのはなぜか。謎を解くカギは、脳の神経伝達物質にあった。

文=ピーター・グウィン

 なぜコロンブスは大西洋横断の航海に乗り出したのだろう。
 なぜジェンナーは少年に天然痘ワクチンを試したのだろう。
 なぜフォードは自動車が馬に替わる可能性に賭けたのだろう。

 人間がリスクに挑むメカニズムを探ろうと、神経系のある領域に注目が集まっている。焦点となっているのは、脳内の情報伝達を担う神経伝達物質だ。

 リスクへの挑戦に決定的な役割を果たす神経伝達物質の一つにドーパミンがある。ドーパミンは運動能力の制御に関わる一方で、私たちが新たなものを探し、学ぶように仕向けたり、不安や恐怖といった感情を処理したりする手助けをする。パーキンソン病の患者のように、脳内で十分なドーパミンが生成されない人は、しばしば無関心や意欲の欠如といった問題を抱えることになる。

 反対にドーパミンが大量に生成される人たちこそが、リスクへの挑戦に関する謎を解く鍵を握っていると、米ワシントン大学の神経生物学者ラリー・ズワイフェルは語る。

「山に登る、会社を興す、選挙に立候補する、海軍特殊部隊に入るなど、リスクを冒してまで何かを成し遂げようとする人々は、強い意欲に突き動かされています。そうした意欲をかき立てるのがドーパミン系なんです」

「限界に挑む人物」のレシピ

 私たちが課題を成し遂げた時、ドーパミンは満足感を引き出す働きをする。課題が危険なものであるほど、ドーパミンの分泌量は増える。誰もが山に登ったり、選挙に出馬したりするわけではないのは、ドーパミンの分泌量が人によって違うからだ。そして、その量を制御するのが、神経細胞の表面にある自己受容体である。

 米バンダービルト大学の研究チームは、実験参加者の脳をスキャンし、報酬や依存、運動などに関わる神経回路の自己受容体を観察した。自己受容体が比較的少ない人、すなわちドーパミンが流れやすい人は、新奇なもの(たとえば探検など)を求める傾向が強かった。

 「ドーパミンはガソリンのようなものだと考えてください」と語るのは、研究チームのリーダーで神経心理学者のデビッド・ザルドだ。「そこに普通よりはブレーキのかかりにくい脳を組み合わせれば、限界に挑む人物のでき上がりです」

 このような議論をしていると、常に出てくるのが「アドレナリン」である。リスクに挑む人々、すなわちリスク・テイカーはしばしば極端なスリル好きやアドレナリン中毒者と混同される。

 アドレナリンはホルモンの一種で、これもまた神経伝達物質の一つである。

 だがドーパミンが目標達成の過程で人を危険に向かわせるのに対し、アドレナリンは危険の回避を助けるよう設計されている。私たちが脅威を感じると、血中にアドレナリンが分泌され、心臓や肺、筋肉などが刺激される。そうすることで、命に危険が迫る状況から逃れたり、戦ったりしやすい態勢が作り出されるのだ。

 つまり、アドレナリンが探求者たちをリスクに挑むよう仕向けているのではない。 「北極探検家が何カ月もかけて氷上を進めるのは、ドーパミンのおかげです」とザルドは言う。

※ナショナル ジオグラフィック6月号から一部抜粋したものです。

編集者から

「人は誰しもリスク・テイカーの子孫」であるという事実を解き明かします。後半ではいつもより多くのリスク・テイカーたちを紹介していますが、なかでも衝撃的だったのが、スカイダイビングで音速の壁を超えたというオーストラリア人男性の話。高度3万6300メートルの成層圏から飛び降り、最高速度は1350キロを超えたというのだから、正気の沙汰とは思えません……。でも、彼と私たちの違いは、ある脳内物質のちょっとした量の違い。その答えは、この特集にあります!(編集M.N)

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