新たな元素を手に入れ、物質のフロンティアを切り開こうと、世界の科学者がしのぎを削っている。

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未知の元素をつかまえろ!

新たな元素を手に入れ、物質のフロンティアを切り開こうと、世界の科学者がしのぎを削っている。

文=ロブ・ダン/写真=マックス・アギレラ=ヘルウェグ

 学生時代に覚えさせられた元素の周期表は、19世紀後半、ロシアのドミトリ・メンデレーエフが分類し、作り上げたものだ。

 世界の万物は元素でできている。物質を構成する小さな粒子(原子)にはさまざまな種類があり、その「種類」が元素だ。元素の誕生は今から100億年以上前。大半は宇宙誕生のビッグバンや恒星の爆発によって飛び散り、できたばかりの地球に取り込まれ、岩石や生物などあらゆる物に姿を変えながら循環を続けている。

 1940年までに、地球上に古くからある安定した元素はすべて発見された。だが、92番元素のウランの先には未知の世界が広がっていた。そこにあるのは何十億年も存続できない、放射性が高く不安定な元素だ。探求するには、まず目当ての元素を作り出すところから始める必要がある。

新元素誕生の瞬間

 突然、ベルが鳴った。

 2012年10月22日、モスクワ北方の都市ドゥブナにあるフレロフ核反応研究所では、ユーリ・オガネシアン率いる核物理学者のチームが実験に取り組んでいた。廊下の向こうでは粒子加速器サイクロトロンが秒速3万キロのスピードで、カルシウム原子を金属の薄膜に衝突させていた。小さなベルの鳴る音は、新しい原子が誕生した合図だ。それは、その瞬間、地球上に唯一存在する117番元素の原子であり、過去を含めても19個目の原子だった。過去の18個もこの研究所で作られ、すべて短時間で崩壊した。この原子も、1秒もたたないうちに消え去った。

 このドゥブナの研究所のライバルにあたるのは米カリフォルニア大学バークレー校のグループだ。同校にいたグレン・シーボーグは1940年、同僚らと実験中に94番元素プルトニウムの生成を確認。翌年には原爆の開発を目指すマンハッタン計画に引き抜かれた。日本の長崎に投下されたプルトニウム爆弾の開発に携わった後、シーボーグはバークレーに戻り、もっと地味な新元素の合成を続けた。

 1970年代半ばまでに、バークレー・チームは102番、103番、104番、105番、106番の元素を合成したと発表したが、ドゥブナ・チームも同様の成果を主張した。結局、105番元素はドゥブナにちなんでドブニウム、106番元素はシーボーグにちなんでシーボーギウムと名づけられた。

 一方、理論物理学者の研究によって、新元素探しの新たな目標も生まれている。

 極めて重く大きな原子核でも、陽子や中性子が「魔法数」と呼ばれる個数になる場合には、驚くほど安定な状態となる可能性があるというのだ。原子核のうち、陽子や中性子が占めている殻にはいわば“定員”があり、ちょうど満員のとき安定すると考えるとわかりやすい。あくまで予測だが、この理論が正しければ、陽子数が114、120、126といった極めて重い超重元素でも数分間、数週間、あるいは数千年間も存在しつづけられるかもしれない。

 昨年春、114番元素は周期表への追加が正式に認められ、フレロフ研究所の名にちなんでフレロビウムと命名された。

※ナショナル ジオグラフィック5月号から一部抜粋したものです。電子版では、未知の元素の合成方法や、新元素の横顔を紹介しています。

編集者から

 元素といえば「水兵リーベ僕の船」などと、語呂合わせで周期表を丸暗記した記憶がよみがえります。学校で教わったのは既知の元素のことばかりでしたが、周期表にない未知の元素をいち早く見つけ出そうと、世界の研究者たちはしのぎを削ってきたんですね。日本からも理化学研究所が113番元素の発見をめぐるトップ争いに参戦中。近い将来、日本にちなんだ名前の元素が誕生するかもしれないと思うと、わくわくします。
 記事には長年この分野をリードしてきたオガネシアン博士が登場し、あまり見聞きする機会のない、ロシアでの研究事情も垣間見られます。また電子版では、元素界のニューフェイス26種類を一挙ご紹介。各元素の、科学と世界情勢が織りなす発見譚をお楽しみください。(編集H.I)

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