第2話 氷蒼の瞳の橇犬アンは耳が聞えない

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 ノック、ノック、コン、コン、コン。

 真っ白な雪に埋もれたベニヤ板の小さな犬小屋の隅を、私は手の甲で叩いて中を覗き込んだ。

 愛らしい寝顔で丸くなっている姿に、しばらく見とれていると、周りの犬たちが、「そんなことより、僕をかまって!」「私をかまって!」と叫び回った。

 40匹を超える犬たちの数ともなると、その声はドックヤードから周囲何キロにも響き渡りそうなくらいの大騒音である。

 けたたましいとしか言いようがない狂喜乱舞、騒然たる犬たちの吠え声の中で、それでも目を覚ますこともなく、のん気に小屋の中で寝息をたてているのは、3歳になるメスのアンだ。

 生まれつき耳が聞こえていない。

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