第21回 びっくり遭遇で心臓バクバク

「これな~んだ? 答えは下に!」(写真クリックで拡大)

 モンテベルデ生物保護区へ下見調査に行った初日のこと。

 お昼ごろには博士論文に使えそうなデータも少し収穫できたので、マルビンさんというバイオロジカルステーションの管理者の方に、森の中にある滝に連れていってもらった。滝の美しい景色に見惚れて写真に収めていると、マルビンさんがつぶやいた。
 「あそこにも甲虫の塊ができているぞ」

 なんのこと?
 滝の両端の7~8メートル上にある岩の裏に、黒っぽい影があった。最初に見つけたときは「コケが生えているんやろう」と、さして気にも留めなかったのだが、なんと甲虫の塊だったとは! しかも塊はいくつもある。

 けれど、それらは足場の悪い、高い所にあって、そばまで行けそうになかった。手の届くような低い場所にもいるはずだと思いつつ、夕方前に別の小川の近くへ移動してみた。薄暗いなか車を降り、見知らぬ林道を少し進むと・・・・

 いた!
 少し開けた大きな岩の裏に、滝のそばで見たものよりも何倍も大きな塊があった。心臓がバクバクして、ぼくは息をするのを忘れた。

 後で調べてみたら、それはテントウムシダマシの仲間だった。乾季になると、小川のそばの大きな岩の裏に大量に集まって過ごすのだという。この塊には、3万~5万匹いる様子。

 近づいても大丈夫なのか?
 ボロボロと落ちてきたり、ザワザワと逃げ出したりはしないのか?

 そんなことが頭をよぎる中、ぼくは、おそるおそる、三脚を使って遠目から徐々に近づいて撮影していった。そしてついには、真横5センチぐらいの距離から接写することに成功! ぼくのバクバク感は絶頂に達していた。

 虫たちは、ぼくに降りかかってはこなかった。持ち帰って種を同定するため、ぼくはほんの5~6匹を手に取り、ポロポロと小瓶に入れた。

滝の風景
Waterfall scenery
乾季でも、水が豊かなモンテベルデ。適度な湿度が森全体を潤す。
落差:約5 m 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ(写真クリックで拡大)
テントウムシダマシの塊の一部
A part of the mass of handsome fungus beetles
テントウムシダマシはオオキノコムシに近い仲間とされている。この種は、小川沿いの大きな岩の斜め裏側に密生し乾季を過ごす。おそらく岩の表面に生えたコケや菌類を頂戴しているのだろう。ところどころでゆ~っくりだが動いている個体がいた。最初の写真で著者が指をさす先に塊全体を見ることができる。
塊全体の大きさ:約130 cm × 30 cm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ(写真クリックで拡大)
ステノタルサス・サブティリス(甲虫目:テントウムシダマシ科)
Stenotarsus subtilis handsome fungus beetles
これが塊の正体。大きな塊ともなると20万匹に達するというデータがある。大まかな計算ながら今回目の前に現れた塊は3~5万匹ぐらいでできているとみる。少々触っても動かないことが判明。
体長:5 mm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ(写真クリックで拡大)
西田賢司

西田賢司(にしだ けんじ)

1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html