第5回 “悪夢”を二度と繰り返さないために

 今村さんの研究には、理学・サイエンス寄り(津波発生のメカニズム研究など)のものと、工学・エンジニアリング寄り(防潮堤・防波堤、さらに今回は都市での津波の挙動研究など)の、2つの分野がある。しかし、肩書きをひとつ選ぶとすると、津波工学者だという。

 そう聞いて、ふと思い出したのは、地球温暖化などについて論じる気候変動の研究者だ。津波工学も気候変動研究も、コンピュータシミュレーションを主な武器にしつつ、将来の防災を視野に入れている。なのに片方は、工学であり、片方は、むしろ、自分たちの軸足をサイエンス側に置こうとしているように見える。やはりリアルな被害が「今」、というか、常時、世界各地で起きている津波研究の方が、防災のためのエンジニアリングの方面を向きやすいのであろう。

 今村さんは、今回の津波をまさに「悪夢」と述べたけれど、しかし、これまでの津波工学の研究成果を反映させた防災対策が、完全にとはいわずとも、被害を低減したことも間違いない。

「防潮堤はすごく破壊されてしまったわけですが、あれはあれで、津波を弱めてくれたり、到達を遅くしてくれる効果はあったんです。頑丈なものを壊すことで、エネルギーを消費しますし、全く無意味ではなかったと思っています。津波のエネルギーを100と考えれば10か20くらい、力を弱めた、と。ただ、地元の人としてみたら、やっぱり期待は大きいわけですよ。全部防ぎきってくれるのではないか、と」

2012年2月号特集「津波 そのメカニズムと脅威」
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