第4回 ドッキリ企画!双子を内緒で交換したら

「すべての面で遺伝が影響する」といっても、同時に「環境」が大いにものを言っていることにも注目しなければならない。パーソナリティの研究でも、遺伝の影響は50%前後であることが多かった。それはまぎれもなく、残りの50%は環境のなせるわざ、ということでもある。

 安藤さんの研究で、こんな結果が出ている。

「遺伝か環境か」ではない。「遺伝も環境も」なのだ。 (写真クリックで拡大)

「たとえば、同じ遺伝的素養があっても、環境によって、現実のものとして発現する場合としない場合があるんです。問題行動の遺伝的素養は、しつけが厳しすぎたり一貫していない家庭のほうが強く出る傾向があり、しつけが厳しすぎず、一貫している家庭ではあらわれにくい。また、読み聞かせをした子の問題解決力が高くなったり、無理に何かをさせず自由にさせていた子のほうが、知的能力が高くなるという結果も出ています」

 つまり、すべての分野に効いてくるという遺伝要素はあくまで素養であり、それが発現するかどうかは、環境に依存する部分も大きい。

 ぼくの見立てでは、安藤さんたちの研究は「生まれか育ちか」という問いに答えるものではない。むしろ、その問いそのものが適切ではなかったことを示している。つまり、「生まれと育ちの交互作用はどのように起きるか」というのが、より適切な問いである、ということだ。

 その意味で、双子の観察研究で明らかにされた知見は、素直に見るなら、むしろ、優生思想的な遺伝決定論とは、正反対の方向を示唆している。それでも、曲解したり、自説に都合のよいように「つまみ食い」したりする論者は必ず出てくるだろうから、注意が必要なのは間違いない。

つづく

安藤寿康(あんどう じゅこう)

1958年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部教授。教育学博士。専門は行動遺伝学と教育心理学。遺伝と環境は、人間にどう影響しているのか、科学的な解明を目指して研究を続けている。主な著書に『遺伝マインド』(有斐閣)、『遺伝と教育――人間行動学遺伝学的アプローチ』(風間書房)、『心はどのように遺伝するか――双生児が語る新しい遺伝観』(講談社)などがある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)など。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン──銀河のワールドカップ・ガールズ』(ともに集英社文庫)は、4月よりNHK総合で「銀河へキックオフ」としてアニメ化される。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider