第2回 「知能指数は80%遺伝」の衝撃

「もともと環境によってこれだけ変わるという研究をしたかったのに、あらゆることに遺伝の影響が入ってるっていう論文ばかりなわけですよ。で、考えてみりゃ当たり前じゃないかと。人というのは遺伝子の産物なんだから、遺伝の影響が現れてくるのは当然なのに、社会科学では結局ナチス以来のタブーのベールに覆われてしまっている。これはむしろ、知的に不誠実だと感じたんです」

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 というわけで、安藤さんはピッカピカの環境派から方向を修正し、「遺伝と環境」の影響の仕方を見る行動遺伝学を学んでいくことになる。しかし、80年代当時の日本では、この手の研究はまったく人気がなかったそうだ。

「10年間やったら第一人者になれると先生に言われたんですけど、それは、要するに人気がないし、敬遠されている、と。そして、確かに第“一人者”(ひとりもの)になった。文字通り一人しかいないから(笑)。40歳ぐらいになるまで、国際学会に行っても、日本人はわたしだけでした」

 というような恵まれない状況の中、予算もほとんどなく、安藤さんの最初の双子研究は、安藤さん自身の配偶者がたまたま一卵性双生児だったこと、そして、知り合いのつてを辿って4、5組の双子を集めて行ったささやかなものになったという。

 流れが変わったのが、20世紀も終わろうかという1996年のこと──。

つづく

安藤寿康(あんどう じゅこう)

1958年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部教授。教育学博士。専門は行動遺伝学と教育心理学。遺伝と環境は、人間にどう影響しているのか、科学的な解明を目指して研究を続けている。主な著書に『遺伝マインド』(有斐閣)、『遺伝と教育――人間行動学遺伝学的アプローチ』(風間書房)、『心はどのように遺伝するか――双生児が語る新しい遺伝観』(講談社)などがある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)など。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン──銀河のワールドカップ・ガールズ』(ともに集英社文庫)は、4月よりNHK総合で「銀河へキックオフ」としてアニメ化される。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider