第2回 「知能指数は80%遺伝」の衝撃

「アメリカは、遺伝か環境か、生まれか育ちか、っていうのが、人種問題と絡めてホットな話題になる国です。ソビエトに人工衛星の打ち上げで先んじられたスプートニクショックで、科学教育が重要ということになって、低所得層、マイノリティの教育の底上げが始まります。『ヘッドスタート計画』といって、テレビの教育番組、セサミストリートもそこから生まれました。そんな中、ちょうど1970年頃、ジェンセンという心理学者が、実は知能指数IQは遺伝によって80%決まっているんだと、双子の研究で明らかにしたんです。黒人と白人との間にはかなり大きな遺伝によるIQの差がある可能性を述べた論文を出して、社会的大事件になって。それについての本と、それに対する批判の本っていうのが、ちょうど日本の翻訳書として出ていたんです」

 1970年代は、行動遺伝学や双子研究にとっては冬の時代。人種差別の学問というレッテルをはられて、挽回するために費やした10年だったという。政治的な批判にこたえるのはもちろんのこと、方法論的な問題もひとつひとつ洗練させていった。

 例えば、当初は別々に育った双子の研究が目立ったそうだ。別々に育ったのに、一卵性双生児はかくも似ているといえば、「すべてが遺伝で決まる」かのようなセンセーショナルな解釈をされやすい。環境の違いを軽視する(遺伝を強調する)方向にバイアスがかかるかもしれない。また、倫理的にもどうか。この問題をクリアした、緻密な双子研究が始まり成果が出始めたのが、安藤さんが大学院に入った1980年代頃だという。