北極ライフ

小さなフォトブック『北極ライフ』は、北極に生まれたホッキョクグマの子ナヌーが、厳しい自然のなかで成長する姿を描いた物語。ナショナル ジオグラフィックの映画(北極のナヌー、2007年)と、シンガーソングライターの谷山浩子さんの出会いがきっかけで生まれました。
そしてこの秋、谷山さんの新アルバム『夢みる力』に、なんと『北極ライフ』のイメージから生まれた曲「NANUK」が収録されたという、嬉しいニュースが舞いこみました。それっていったい、どんな曲? 都内でのコンサートを間近に控えた谷山さんの、ミニ・インタビューをお届けします。(編集部)

――新アルバムの収録曲「NANUK」のことを、聞かせてください。

 北極って、雪と氷と水ばかりで、あとはちょっと魚がいて。氷がとけてとり残されたり、エサがとれなくなったり。そんなところで生き物たちが、必死にただ生きてます。
 見ていて、これが基本なんだ、人間だってもともとは、これが基本なんだなってことを、ひしひしと感じて。映画から受けた感動をそのまま伝えられたら、と思いました。

 曲づくりではできるかぎり、あの北極のイメージを出そうと、がんばりました。自分自身の生活は基本的にインドア型なんですが、せせこましくならないように、自分のもってる、いちばん広い感じで。

 歌を作りながら、思いました。自分はここで、こうして歌を作ってる。それは北極の彼らには聴いてもらえないし、もし聴いたとしても、ことばの意味は絶対に通じないんだな、って。当たり前なんですが。

 人間って、くちゃくちゃしたことで悩んでばかりで、ちっちゃいな、と。こんなところで、あの世界を歌にしている自分が、なんというか、「しゃらくさいな」って思えてきて。歌詞の中の「歌もことばも きみは知らない」というフレーズは、そこから生まれました。

谷山浩子さん

――『北極ライフ』のときは同じ世界を、「ナショジオの写真」×「谷山さんの言葉」という形で本にしました。

 普段は私、かなり「ことば数」の多いほうなんですが、これは自分の仕事史上でも、いちばんことば数の少ない作品になりました。

 人間が、くちゃくちゃした存在なのは、脳が発達してて、意識があるから。ことばには、どうしてもその部分が出てきます。圧倒的な、説得力がある写真と合わさったときに負けないように、ものすごくことばを選んで、選んでるうちに、どんどん短くなっていって……。

 でも、その甲斐あってか、(フォークシンガーの)小室等さんがこの本を読んで、「温暖化がどうの、といった“いかにも”な啓蒙メッセージじゃなくて、平易な言葉なので、かえって心に伝わってくる」と言ってくださって。これは嬉しかった。

 ナショジオの写真に負けずに、というのはなかなか難しいんですが(笑)。
でも胸を借りる、くらいのつもりで“勝負”をさせてもらって、自分の持っている力が、いちばんいい形で出せたんじゃないかなって思います。

――写真や映像はもともと、お好きなんですか?

 写真、好きです。映画の公式写真集(→『北極のナヌー』)の巻末には、撮影チームの苦労話が載ってましたよね。めあての動物が出てくるのを何週間も何カ月も、ただただ待ちつづけるとか、忍耐あり、危険ありで。すごいなあと、心底尊敬しました。

 そうそう、写真といえば、ナショジオの壁紙はいつも楽しみにしてます。写真のクオリティが高いし画質もいいし、「これが全部タダとは、なんて太っ腹!」と思いつつ。  気に入った壁紙は、自分で見つけてきたフリーソフトを使って、ジグソーパズルにして遊んだりもしてます。楽しいですよ。
※記事の末尾に、谷山浩子さんお気に入りの壁紙コレクションを紹介しています。

 自分でも以前、一眼レフのフィルムカメラで撮るのに凝ってた時期があったんですよ。ニコンのFM2を、どこへ行くにも持っていって、撮りまくってました。最近は、トイデジ(ポケットデジタルカメラ)のSQ30mで遊んでます。自分じゃなく、カメラが撮ってる感覚で、何が撮れるかわからないおもしろさがありますね。

――ジャケット写真が一眼レフカメラのアップ、というアルバム(『心のすみか』)もありました。新アルバム『夢みる力』のジャケットは、レトロな雰囲気の写真ですね。

夢みる力

 これ、自分が2歳くらいのときの写真なんです。当時は千葉の田舎で飼料問屋をしていた祖父母のもとで暮らしてて、家の玄関前で、たぶんすねて座りこんでるところです。
 きかん気な子どもで、いつも「早く寝なさい」と「もっと小さい声でしゃべりなさい」と「ごはんのとき本を読むのはやめなさい」と、3点セットでしかられてました。

 この写真の2年後、4歳くらいからもう、詞は作りはじめてました。まだ言葉の断片みたいなものでしたが。

 字の読み書きは、読むほうは絵本などを読んでもらいながら覚えました。書くほうは、本の余白に、自分でまねして書きこんだりして。初めはよく、左右の反転した「鏡文字」を書いてたみたいです。それで鏡文字ということばが気に入ってて、歌にも使ってみました(今回のアルバムに入ってます!)。

――『夢みる力』には、「さよならDINO」という曲もありますね。これはもしや、恐竜の歌ですか?

 はい。恐竜に限らず、昔の生き物たちが好きなんです。小学生向けの生物の図鑑とか、見ていると楽しくて。特に好きなのは、動物が海から陸に上がるところ。進化ってすごい、生命の力って、すごいなあ、と。

 あと、恐竜が繁栄を極めたあとに絶滅した、その物語に、特に最近は、つい人間を重ねあわせてしまいます。そういう意味では恐竜に、不思議なシンパシーみたいなものを感じますね。

 なにしろ、いまや「70億人の地球」ですから。たしか学校では36億人って習った記憶があるのに、いつこんなに増えたんだろうって、驚きました。ナショジオ日本版のサイトにある、 「現在の世界の人口」を表示するカウンター、見ている間にもどんどん増えていくじゃないですか。見ていて、こわくなります。
 これってきっと、異常な事態ですよね。そのことを、わかっておいたほうがいいんだろうな、と思いました。

 私たち現代人は、生まれたときからまわりにシステムができあがってて、その中でぼうっとしてても生きていける。生きていくのが大変なこと、という実感が薄い気がして、それがある意味、不安になります。若いころから、そうでした。

 ずっと保育器の中に寝かされているようで、でも自分では意識していない。いつかケースにひびが入って、冷たい外気が吹きこんできて、ぎゃあぎゃあ泣いても、誰も助けに来てはくれなくて。常に背中のあたりに、なんかそういう「不安ビジョン」みたいなものがあるんです。
 だから、たとえば無人島に放り出されたら、なんにもできない、火もおこせない自分を、もうちょっとなんとかしたい――そんな心の動きは、ありますね。 ナショジオから出たサバイバルの本にも、ちょっと食指が動きました。

 長年ほとんどしなかった料理をこのごろちょっとずつ始めたのも、たぶん、そんな不安のせいだと思います。必要性とか理性的な動機とは違った、もっと無意識からの突き上げに近いなにかに背中を押されるように。ふつうの人並みくらいには、生き残る力を上げておきたいと、心のどこかで感じているのかもしれません。

――9月は都内でのコンサート、10月からはソロツアーですね。

 はい。新宿でのコンサートでは、多彩なゲストを迎えて楽しい企画を準備中です。ソロツアーでは10月15日を皮切りに、全国をまわる予定です。ライブで皆さんと会えたら嬉しいですね。

おわり


谷山 浩子(たにやま ひろこ)

シンガーソングライター。東京生まれ、横浜育ち。1972年にシングル「銀河系はやっぱりまわってる」とアルバム『静かでいいな~谷山浩子15の世界~』を発表、15歳でデビュー。以来、現在までに40作品のオリジナルアルバムをリリース。NHK「みんなのうた」や、スタジオジブリ映画『ゲド戦記』などへの楽曲提供のほか、童話や小説、エッセイの著書も多く、全国各地で精力的にライブやイベントを行っている。
コンサート情報:9/17~26「猫森集会 2011」全労済ホール・スペースゼロ(新宿)、10/15~12/24 ソロライブツアー。
→詳細情報はこちらへ



【おまけ】谷山浩子さんお気に入りの壁紙コレクション

★おかしいかわいい
→中国:仏頭と石炭
→日本:サル団子

★生きているものの愛しさ
→英国:強い風で曲がって育った木
→フランス:泳ぐヒキガエルと卵
→ルーマニア:歩いていく少女たち
→米国:地下鉄のサンタクロース
→赤ちゃんチンパンジーねむってる

★美しい
→米国:グレビーシマウマ雪の中
→スペイン:カサ・バトリョ
→コンゴ:木の上のチンパンジー
→インドネシア:白い女たちの中の赤い少女