文=アレクサンドラ・ティルスリー

 象牙の需要増加にともない、ケニア北部のサンブル国立保護区周辺では、ゾウの密猟がここ14年間で最多の水準に達した。このままではゾウの個体数はもちろん、生態系全体に影響が出る可能性がある。

 調査保護団体「セーブ・ジ・エレファント」は、数十年にわたりゾウを密猟者から守る活動を続けており、つい最近までサンブルではゾウの生息数は回復傾向にあった。

カディジャがはめていた、発信器付きの首輪は切り取られ、死体のそばの砂に埋められていた。
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 ところが7月12日、カディジャという名の雌リーダーが死んでいるのが見つかった。カディジャは、ほぼみなしごゾウばかりで構成された群れ「スワヒリ・レディース」に唯一残っていた成体のゾウだった。犯人は密猟者だ。カディジャは4発の銃弾を撃ち込まれ、牙を切り取られていた。深刻さを増すサンブルの密猟問題について、「セーブ・ジ・エレファント」の創設者イアン・ダグラス=ハミルトンに聞いた。

――カディジャの事件が重く受け止められているのはなぜでしょうか?

 カディジャは、とても有名なゾウの家族の、最後のリーダーでした。研究者のジョージ・ウィッテマイヤーが、2000年代初頭に名前を付けた家族です。リーダーとなった雌は1頭また1頭と殺されていき、唯一残されたカディジャが、8頭ほどのみなしごゾウたちを率いていました。

――密猟が増加している原因は何ですか?

 象牙の需要が高まっているのだと考えられます。買い手は主に、中国で台頭している裕福な中流層で、おそらく彼らは自分たちが象牙を買うたびに、ゾウが殺されることに気付いていないのでしょう。このほか、作物を荒らしたせいで殺されるゾウもいます。

生前のカディジャ。サンブル国立保護区に生息する群れ「スワヒリ・レディース」の最後の雌リーダーだった。
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――ゾウの個体数の減少は、周辺の生態系にも影響を及ぼすのでしょうか?

 さまざまな側面に影響を及ぼします。ゾウは茂みを踏みならし、ほかの動物たちが通れる道を作りますし、干ばつのときには水が出る穴を掘ります。ゾウが好んで食べる木々は、あちこちに種が蒔かれます。ゾウが生息地を行き来するのに使う道は、ほかの動物にとっても役立ちます。

――密猟と闘うため、政府はどんな対策をとっていますか? さらに必要な措置はありますか?

 ケニア野生生物公社はできるだけのことをしていますが、象牙の需要が高まっているせいで、とにかく忙しいのです。地域社会や、保護団体「ノーザン・レンジランド・トラスト」、ケニア野生生物公社などが現地で密猟対策を講じるためには、もっと資金が必要です。また、密猟の抑止力を高めるためには、有罪判決を受けた密猟者への刑罰はもっと厳しくすべきでしょう。

――ゾウの密猟に関して、誤解されていることはありますか?

 貧しい農民がせっぱ詰まって象牙の密猟に手を出していると考えるのは間違いです。現実には、象牙の密猟と取引は、組織だった犯罪集団によって行われる場合が増えており、実際に密猟を行う者たちの多くは強盗です。彼らは自動小銃で武装をし、ゾウなどの野生動物を殺すだけでなく、略奪行為にも及びます。

――密猟を完全になくすことはできるのでしょうか?

カディジャの死体のそばで、赤ちゃんゾウが死んでいるのが見つかった。
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 完全になくすことは無理ですが、抑制はできます。1989年に象牙取引が禁止されてから、ケニアではゾウの個体数が増えました。まだ密猟はありましたが、1985年に1万4000頭だったゾウが、2006年には2万3000頭以上になったのです。しかし今、再び始まったゾウに対する攻撃を止めるため、わたしたちは是が非でも世界の人々にこの危機を知らせ、行動を起こさなくてはなりません。最終的には、象牙の需要を減らす必要がありますが、これを実現するうえで鍵になる国は中国です。

――カディジャの率いていた家族のみなしごたちは、この先どうなるのでしょう?

 小さな子どもたちは死んでしまうかもしれませんが、5歳以上の子であれば、たいていはうまくやっていきます。きょうだいやいとこ同士は一緒にいることが多いですね。雄は、親のいるグループに比べ、親のいないグループの方が早く群れを離れる傾向にあります。1頭だけで独立するか、あるいは雄たちの作るつながりの緩い群れに加わります。いまのところ、カディジャのいたスワヒリ・レディースの子どもたちは、一緒に行動しています。サンブルでの長期にわたる研究の一環として、こうしたみなしごゾウが、どうやって自分たちの命をつないで生き残っていくのかを見守る予定です。

サンブルのゾウの保護についての特集はこちら
「地球にひとつの生命 ゾウの大家族」(2008年9月号)

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