第7回 ワニ頭の昆虫の“マチャカ”伝説

 闇に浮かび上がる、奇妙なピーナツ状の物体。
 ワニの頭にも見えなくはないが、まさか擬態?

 実はこれ、ユカタンビワハゴロモという昆虫の頭部。カメムシ目ビワハゴロモ科に属するこの昆虫は、昼間は木の高いところで幹の表皮に生える苔や地衣類にまぎれてじっとしている。夜になると低い位置に現れ、木の汁を吸っている。

 全体像は下の写真を見てほしい。たしかに頭の先にピーナツ状の突起物が付いている。けれど、その役割は謎だ。発光するという噂があるが、それは事実無根の言い伝え(上の写真は後ろからライトで照らしているのです)。もちろんワニに擬態しているわけでもない。
 なので、ぼくは勝手な想像をしてみる。ピーナツ状の突起は空洞になっているので、このユカタンビワハゴロモの鳴き声を増幅させる役割をしているのではないか。そして仲間同士のコミュニケーションや求愛に役だっているのかもしれない。

 この奇妙な風貌をした昆虫を、コスタリカでは「マチャカ」と呼ぶ。「マチャカにかまれた人は、24時間以内に彼氏または彼女と結ばれなければならない、さもなくば死す!」という、これまた奇妙な伝説がある。けれど、あごがないマチャカは、そもそもかむことができない。これぞ、まさかのマチャカ伝説なのである。

ユカタンビワハゴロモの1種(カメムシ目:ビワハゴロモ科)
Fulgora lampetis
白い粉状のワックスをほぼ体全体から噴き出している。頭の突起の付け根の黒い部分に目と触覚がある。夜中、木の根元付近で汁を吸っているところを、蚊にさされながら懐中電灯をてらして長時間露光撮影をした。
体長:7 cm 撮影地:熱帯研究機構ラ・セルバ・ステーション、コスタリカ(写真クリックで拡大)
ユカタンビワハゴロモの1種(カメムシ目:ビワハゴロモ科)
Fulgora laternaria
昼間、敵などに襲われると、翅をサッと開き、後ろ翅にある警戒色の特大目玉模様を披露する。ちなみにこの昆虫の赤ちゃん幼虫はアリに擬態していて、歩くのもすばやい。
体長:7 cm 撮影地:サンタ・ロサ、グアナカステ、コスタリカ
西田賢司

西田賢司(にしだ けんじ)

1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html