その5 「子供を育てたい」が選択肢に並ぶ日を

 共同繁殖システムの崩壊、女性の社会進出、男性の“草食化”など、さまざまな社会的要因が絡み合いながら、今なお進んでいる日本の少子化。

「ただし、これが異常かというと、一概にそうとは言えない」
 と長谷川さんは言う。

 たしかに、1人の女性が10人子供を産んでも珍しくなかった戦前の日本に比べると、出生率は激減しているといえる。ところが、

「戦前の子だくさんが、ヒトという動物にとって正しい子供の産み方かというと、そうでもないのです。脳が大きいヒトは、ほかの生物に比べても、子育てに何倍も手間がかかります。たとえば授乳期間が3年もあり、独り立ちするまで20年もの時間を必要とする動物はほかにはいません。だからこそ、集団繁殖で人の手を借りて子供を育てざるをえなかった。そう考えると、ひとりの女性が10人もの子供を産んで育てるということのほうが、生態学的にも無理があると考えられます」

 昔は町に子供がいっぱいいた。そんな話をよく聞くが、実は日本の女性が多産になったのは明治時代からと、意外にその歴史は浅い。開国後、世界の国々との競争力をつけるため、国家をあげた政策の結果としての多産化だった。

「子孫をたくさん残して、家を繁栄させたい男性側の意向もあったでしょう。いずれにしても戦前の多子多産は、国家などに奨励されたもので、決して自然の摂理ではないのです。
だから多産を、ヒトの正しい基準と思わないほうがいい。1平方キロ当たりのポピュレーションサイズが1.2人というのは、その意味でも妥当な数字といえるでしょうね」