第6回 1億種以上の化学物質と人類の未来について

 汚染物質には、水に溶けるものと溶けないものがあり、当たり前だがプラスチックは溶けない。それどころか、同じく水に溶けない他の汚染物質を吸着する機能まで持っている。一方、水に溶けてプラスチックに吸着されない汚染物質も当然ながらあって、その中でも、高田さんは生活の中で発生するタイプのものに特に関心があるという。

「今、やっているのは、下水の指標の研究です。抗生物質とか、合成甘味料、さらに、医薬品ですとか。さらには洗剤に入っているアルキルベンゼンですとか。下水っていうのは、水質の汚染の一番の発生源になるので、それがどれくらいどういうふうに広がっているかを理解することが、どの国で水の対策する上でも大事なんです。そこで、どこの国でも使える、下水の指標になるようなものを見つけようとしているんです」

インドネシア、ジャカルタ近郊の廃棄物埋立処分場で埋立ゴミからの浸出水を採取中。ここからは高濃度のプラスチック添加剤が検出された。プラスチック汚染の研究でも下水調査でも、高田さんは「現場百遍」をモットーに世界を飛び回る。
[画像のクリックで拡大表示]

 たとえば川の水を取って調べた時に、下水の影響がどれだけあるか、すぐに分かる指標を探している、ということだ。いきなり、合成甘味料と言われると突飛だが、考えてみると、カロリーゼロの合成甘味料は、代謝されずに排泄されるからこそカロリーゼロなわけで、そのまま下水道を通じて川に流れ込む。また、抗生物質も実は体に取り込まれるのはごく一部で、ほとんどはそのまま排泄される。アルキルベンゼンは洗剤の中に入っており、下水特有の汚染物質かもしれない。あとは、コレステロールが腸内で変性したステロールという物質もマーカーとして有望だそうだ。

 いずれにしても、下水というのは人間の生活から出るものだから、そこに注目するとその国、その場所の人々の暮らしぶりにまで肉薄することになり、興味がつきない。川の水から、その社会の成り立ちのようなものを透かし見ることにもなる。

「たとえば、合成甘味料は、日本やヨーロッパで使っているものは高価なものが多くて、それをマーカーにしようとしても東南アジアとかアフリカでは使えないことが分かってきました。じゃあ中南米とか中東ではどうかとかやってみて、世界中の国で使える組み合わせを探っているわけです」

 なお、なぜわざわざ「下水のマーカー」が必要なのか気になった人もいるかもしれない。川が汚染されているかどうかは、昔からある指標、生物化学的酸素要求量(BOD)とか、化学的酸素要求量(COD)ではいけないのだろうか、と。