第6回 1億種以上の化学物質と人類の未来について

 中高生時代、多摩川の現場と実験室の間で感じた喜びと通底するものを感じる。自分が立っている場所についての感覚と「化学的な手法を通じて受け取るメッセージ」がひとつながりになる時に喜びがある、と。これは、やはり、探偵のような謎解きの喜びに近いのかもしれない。

「僕ら人類は化学物質をこれまでに1億種以上つくってるわけなんです。汚染が問題だと言われながらも、今も増えています。それらは僕らの暮らしを快適で衛生的なものにして、長生きできるようにするために使われているわけなんで、なくせるわけもないし、なくすべきではありません。つまり、共存していかなければいけないので、それらを常に監視していく必要があります。僕たちは、化学物質を使っていくために必要な、環境の側での監視人なんだろうなと位置づけています。それでも、ですね、研究の中で喜びを感じる瞬間としては、分析機械の結果を見ていて、何も出ないと思っていたところに化学物質の存在を示すピークが出てくるような瞬間。やっぱり、それは喜びなんですよ(笑)」

 使命感を持って研究をしつつ、やはり、その中で、わきたつような喜びの瞬間がある。そういうものだ。

 なお、「何も出ないと思っていたところに化学物質の存在を示すピークが出てくる」というのは、まさに高田さんが学生時代に海の泥から発見したアルキルベンゼンがそうであり、また、波打ち際にあるレジンペレットからPCBを始めとする様々な有害物質を見出した時もそうだ。いずれも高田さんのその後の研究を決定づける大きな意味を持っていた。

第2回ででてきた、海岸のプラスチックからノニルフェノールやPCBなどが高濃度で検出されたという2001年の論文が表紙を飾った学術誌。『Nature』や『Science』をはじめ、環境汚染に関する高田さんの研究論文はさまざまな学術誌に多数掲載されてきた。
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 それでは、今、高田さんは新たに何を見出そうとしているのだろうか。マイクロプラスチックの話はたくさん聞いたけれど、「環境汚染の化学」はなにもそれだけではないだろう。

「プラスチックによる環境汚染というのは別に、もう一つ全然違うテーマに取り組んでいます。それは、プラスチックとは違って、水に溶ける人工物質による環境汚染です。我々が日常的に使うものによって起こる汚染に興味があって、特に日本含めてアジア、それからアフリカその他の地域で調査しています」