第6回 1億種以上の化学物質と人類の未来について

東京都立大学(現:首都大学東京)を志す契機となった『水質調査法』はいまも本棚に。
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「進学したのは東京都立大学です。当時、都立大にいらした半谷高久先生の著作『水質調査法』を読んで、これだと思いまして。それで、研究室に入って、やってみないかと同じ研究室の石渡良志先生に言われたのが東京湾の調査です。海底の泥を試料にして、ある化学物質の分析法を開発するのが目的だったんですが、その途中で新しい汚染物質を見つけました。アルキルベンゼンといって、合成洗剤の中に入っている成分です。これが1つの研究的な原点です。僕にとっては卒業論文の研究だったんですが、修士1年の時、1983年に『Nature』に掲載されました。他の研究者と競争みたいになったので、当時、英語の論文を書いたことがなかった僕のかわりに、石渡先生が急いで執筆したんですが」

 学部時代の研究で、世界の最高峰の学術誌『Nature』に掲載される成果を挙げるとは! これはかなりレアなことではないだろうか。また、この時点で、高田さんは東京湾で堆積コアを採取して分析する、のちにつながる研究を始めていたというのも感慨深い。

 ここまで聞いてふと気になった。川の汚染についても、海の底の泥の汚染についても、研究をする上で、なかなかスカッとした喜びに繋がりにくいのではないか、と。もちろん、意外なところから新しい汚染物質を見つけたりする「発見の喜び」はあるだろう。でも、発見しても歓迎されるような物質ではないから、やはり手放しでは喜べない……。

モザンビークの南端に近いポルトゥゲーゼス島でマイクロプラスチックを採取中。(写真提供:高田秀重)
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 そこで、ちょっと失礼かと思いつつも、高田さんに「モチベーション」について聞いてみた。高田さんはちょっと遠くを見るような仕草の後で、こんなふうに答えてくれた。

「アルキルベンゼンを見つけた時の研究ですが、東京湾なんで、そんな大きな湾ではないんですけど、真ん中に行けば当然、天候次第で陸が見えないようなところがあります。それなのに陸上で僕らが使ったものがここの泥の中にあるのが非常に不思議だと感じました。研究者としては素朴な感想ですけど、そんなふうに思ったのが、その後も続けている動機ですかね。目で見ても、そこに人間活動の影響はなさそうなところで何かサンプルをとって、それを研究室に持っていって測ってみると、そこから影響が読み取れると。採取したものから出てくる信号が何かを僕らに語っているのかもしれないと感じることができるんです。それが僕らのやっている研究のモチベーションかなと思います」