実は奥深いチョウとガの違い(神保宇嗣/チョウ・ガ研究者)

 このように、シャクガモドキは、チョウらしい見た目をしていないが、分類学的にはチョウの仲間に含まれる。その一方で、チョウのような見た目のガもいろいろなグループに含まれる。では、いわゆる「チョウらしい見た目」とはいったいなんだろうか。

 そのヒントは、活動する時間にある。昼間活動するチョウやガでは、派手な色や斑紋は、自分の繁殖相手を見つけるために役立っていると言われている。また、体の中に毒を持っていて食べると不味い種類では、天敵の鳥などに派手な斑紋で自分が有毒なことをアピールしていることもある。ここに示すキボシルリニシキのように、有毒のチョウとガでよく似た派手な斑紋をもっているものもいる。

 ところが、夜に活動するガの仲間は、自分の繁殖相手を見つけるために「におい(フェロモン)」を使い、斑紋は使われない。地味な模様は、昼間隠れているときには、天敵に見つかるのを防ぐのに有利なのかもしれない。つまり、チョウとガの違いと思っている見た目の違いの多くは、おもに昼間と夜という活動時間に関連した進化の結果であって、チョウとガそのものの違いではないのだ。

昼に活動するガ、キボシルリニシキ。東南アジアに分布する。有毒で、同じく有毒なチョウのルリマダラの仲間によく似た斑紋を持つ(写真提供:神保宇嗣)
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 では、見た目でチョウとガを区別できる場所はあるのだろうか。現在、成虫で両者の区別点の候補とされているのは、胸部、ハネの基部、あるいは腹部などの、顕微鏡で見てようやくわかるような細かい構造ばかりだ。一方で、1986年に出版された、シャクガモドキをチョウの仲間とした論文では、卵、幼虫、サナギに見られる類似性がその重要な証拠となった。確かに、幼虫などには、成虫の見た目よりもわかりやすい共通点がシャクガモドキといわゆるチョウの仲間との間にあるが、それでも全ての種に当てはまるわけではない。結局の所、一般的に言われているチョウとガの区別点はどれも完全には当てはまらず、チョウをガから例外なく見た目で区別できる特徴は、現状では無いと言っていい。

 このように、生物分類学の立場からすれば、同じチョウ目という大きなグループに含まれ、厳密な区別点は全くといって無いチョウとガであるが、チョウの持つ一般的な傾向を調べること自体には様々な意味がある。たとえば、チョウは、一般的に言われているように、ほとんどの種が昼間活動する仲間だが、なぜ昼間活動するグループとしてこれほど繁栄できたのかは、チョウやガの進化を考える上でとても面白い問題だ。一方で、シャクガモドキのような、チョウらしからぬ仲間がどのように進化してきたのかもわかっていない。チョウとガの違いには、まだまだ多くの研究者の興味をひくさまざまな謎が隠されている。

 今回の特別展昆虫では、チョウやガを含め、様々な姿形をした昆虫が展示される。その中には、今回の取材で見ることができたアマゾンのシャクガモドキをはじめ、一般的な印象とはずいぶん異なる昆虫も多く含まれる。なかなかじっくり見る機会の少ない昆虫もいろいろいるだろう。特別展に足を運ばれる際には、先入観にとらわれずに展示を見て、たくさんの昆虫の中から、ぜひ自分なりにこれはと思うものを見つけていただきたい。 そこから、昆虫に対する新しい見方ができ、新しい印象を感じ取っていただくことができれば嬉しい限りだ。

神保 宇嗣(じんぼ うつぎ/チョウ・ガ研究者)

国立科学博物館動物研究部、陸生無脊椎動物研究グループ所属。専門はチョウやガの仲間。小型ガ類の分類学的な研究のほか、都市部を中心とした昆虫相の調査、生物多様性に関係するいろいろなデータベースづくりにも携わる。

特別展「昆虫」

本展では、世界に一点だけのヤンバルテナガコガネの「ホロタイプ標本」や、本展の開催に向けマダガスカルで発見してきた新種のセイボウ(青蜂)など、他で は見られない標本が展示される。またこの新種の名前に、選ばれた来場者の名前をつけて新種登録するキャンペーンも実施。昆活マイスター(オフィシャルサポーター)は無類の昆虫好きで知られる俳優の香川照之さんが就任し、香川さんが提案したコンテンツも展示される。

■会期:2018年7月13日(金)~10月8日(月・祝)
■会場:国立科学博物館
■休館日:7月17日(火)、9月3日(月)、9月10日(月)、9月18日(火)、9月25日(火)
■公式ホームページ:http://www.konchuten.jp