実は奥深いチョウとガの違い(神保宇嗣/チョウ・ガ研究者)

 飛行機を乗り継ぎ現地に入ると、昼間はきらびやかなモルフォチョウが飛び回る世界。シャクガモドキの多くは夜になると灯りに来るということなので、夜を待つ。暗くなり、白布を張ったセットのところで灯りをつけると、熱帯らしい派手な色彩のガがたくさん飛んでくる。しかも、いつも調査している日本や東南アジアのガとは全く違った姿形のものが大部分を占める。私の専門の小さいガの仲間に至っては、一見したところではどの仲間かすら特定できないものも多く、あれこれ見ているうちに時間はすぐに経ってしまう。

 しかし、シャクガモドキはなかなかやってこない。その姿を見られたのは、夜間の調査を始めて少し時間が過ぎた21時ごろのことだった。弱々しい飛び方のガらしきものがやってきて、灯りの下の白布に止まった。写真で見たことのある、前後のハネを半開きにするような止まり方、たしかにシャクガモドキだ。その後、22時を過ぎると、続々と白布に飛来するようになったが、やはりいわゆるチョウらしさは感じられない。もし何も知らずに来たら、やはりちょっと変わった止まり方をするシャクガだと思ってしまったかもしれない。それくらい、チョウらしからぬ格好をしている。

夜に活動するチョウ、シャクガモドキの一種。アマゾン地域で灯りに飛来した(写真提供:神保宇嗣)
[画像のクリックで拡大表示]

 では、シャクガモドキはなぜチョウの仲間とされているのだろうか。 シャクガモドキと他のチョウ、そしてガとの関係がどうなっているのかを見てみよう。ここに、最近の研究による、DNAで推定したチョウとガの進化の道筋、すなわち系統を示す。これを見ると、シャクガモドキは他のチョウと一緒にひとつのまとまりになることがわかる。このまとまりが分類学におけるチョウなので、シャクガモドキはチョウの仲間になるのだ。

 また、チョウの仲間は、様々なガの仲間に取り囲まれていることもわかる。そもそも、チョウとガは、きれいに2つに分かれるような関係ではない。チョウとガは、同じチョウ目(もく)(鱗翅目(りんしもく)ということもある)に含まれるが、その大部分はガで、チョウはその中の一つのまとまったグループに位置づけられる。実際、チョウ目は世界で16万種ほどが知られるが、チョウはそのうち2万種弱を占めるに過ぎない。

DNAによって推定されたチョウやガの進化の道筋の概略。シャクガモドキを含むチョウがひとつにまとまること、チョウはガに囲まれた1群であることがわかる(提供:神保宇嗣)
[画像のクリックで拡大表示]

次ページ:そもそもチョウとガの違いとは?