現在も製造されている没食子インク(写真提供:井手竜也)
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 昆虫と人は意外なところでもつながっている。例えば、ペンを使って文字を書く。当たり前のことだが、それにはインクが必要だ。ペンとインクの歴史は古いが、今日多く利用されているインク内蔵型のペンが普及する前は、ペン先にインクをつけながら使う、いわゆるつけペンが主流だった。

 そのつけペンのインクとして、古くから用いられているものに「没食子インク(もっしょくしインク、iron gall ink)」と呼ばれるインクがある。ブルー・ブラックが主な色合いのこのインクは、耐水性に優れ、製造も容易であったことから、中世ヨーロッパでは広く用いられた。現在も製造は行われており、古典インクと呼ばれ、親しまれている。実はこの没食子インクの製造には、とある昆虫が欠かせない。

 その昆虫というのが、筆者が日々研究している「タマバチ」というハチだ。世界で約1400種がこれまでに見つかっているハチなのだが、ほとんどの種が体長5mm以下の小さなもののため、なかなか目にする機会も少ない。ハチといっても人を刺すこともない(実は人を刺さないハチは多いのだが)。

 ヨーロッパからアメリカまで、北半球を中心に分布しており、もちろん日本にも身近に生息している。昆虫には肉食性のものや植物食性のもの、雑食性のものなど、様々な食性をもったものがいるが、このタマバチは、植物に寄生する植物食性の昆虫として知られている。クヌギやコナラの仲間、いわゆるドングリの木がその主な寄生先だ。

寄生先のクヌギの芽に産卵するクヌギエダタマバチのメス成虫(写真提供:井手竜也)
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