ハイフンの見落としで打ち上げ失敗… NASAの教訓

 しかし、発射の約4分後、このロケットが予定外の方向転換をし、コースからそれ始める。NASAの安全担当職員は、飛行を中止する(ロケットと探査機を無駄にする)か、続行する(ロケットが住宅地や船舶の航路に墜落する危険を冒す)かを、1分足らずで決めなければならなかった。そして、ミッションの中止を決断。ロケットは爆破された。

プログラムミスとテスト不足

平滑化を表す上線(オーバーライン)が、実際のプログラムに反映されなかった
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 事故後の調査によれば、この事故には原因が2つあった。1つ目はロケットの無線誘導システムに関するもの。これが本来の役目を果たさなかった。2つ目は、そのバックアップとして用意されていた誘導コンピューターに関する問題だった。

 計画では、無線誘導システムに不測の事態が生じた場合、バックアップ用の誘導コンピューターが作業を引き継ぐことになっていた。だが、この誘導コンピューターのプログラムにミスがあった。プログラムを書く過程で、平滑化を表す「上線(オーバーライン)」が数式から抜け落ち、不適切なプログラムを作成してしまっていたのだ。

 このミスにより、ロケットは不必要なコース変更を開始。その結果、ロケットはコースから外れていく。それまでのテストでは無線誘導システムが正常に働いていたので、バックアップ用コンピューターの不具合に事前に気づく機会がなかったという。問題の上線は、後に「ハイフン」として世に伝えられた。

 報告書には次のように記載されている。「コンピューターに搭載した誘導プログラムからハイフンがなぜか抜け落ちていたため、誤った信号による指示でロケットは左に向きを変えて機首を下げた。(中略)あえて言うなら、アメリカ初の惑星間飛行の試みは、ハイフンが1本抜けていたために失敗した」。このロケットは8000万ドル以上したことから、SF作家のアーサー・C・クラークはこのエラーを「史上最も高くついたハイフン」と評している。

マリナー探査機の模型を受け取るケネディ大統領(写真:NASA)
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 幸いなことに、マリナー1号には予備機があった。そのマリナー2号の準備が1~2カ月以内に整わなかったなら、この莫大な財政的損失により、まだ草創期にあった惑星間飛行計画は本当の始まりを迎える前に打ち切られていただろうといわれている。マリナー2号は1962年8月27日に打ち上げられ、同12月14日に金星まで約3万5000キロまで接近し、ミッションを完了した。

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