第5回 世界をきれいにするカラス、自然の物に巣をかけないツバメ

「例えば、カラスについて考えましょうか。カラスって、多くの人にとって、出しておいたゴミをついばんで散らかしてしまうとか、迷惑な鳥ですよね。じゃあ、カラスの生態系における生活ってどういうものかというと、彼らは“スカベンジャー”、死肉食だったり、腐肉食だったりするわけです。生態系の中ですごく重要な機能を持っていて、もしいなかったら世界は死体であふれて不衛生な状態になるはずです。つまり、カラスって世界をきれいにする立場なんですよ。一方で都市では、ゴミが資源ではなくてゴミとして扱われるので、カラスは立場を変えられてしまい、害鳥として扱われている。嫌がらせのためにゴミをあさっているわけではなくて、まさに生態系の中の機能をただ単に発揮しているだけなのに。それがわかれば、今まで迷惑だなと思っていたカラスも、単に生態系の中での機能を忠実に発揮しているだけで、むしろやっちまったのは人間のほうだっていうのもわかります(笑)」

 このあたりの話はつきない。

 たとえば、ツバメは、よく軒先に巣を作ってフンを落として迷惑がられるが、実は日本のツバメが自然の構造物に巣を作った例というのは今のところ報告されていないそうだ。つまり、人工物に巣をかける。ヒトが出入りするところは安全だということで、ヒトと共生するやつが残っていったのではないか……などなど、いきなり話が数万年レベルの大きな物語になる。冒頭で紹介した鳥の骨を見ながら語ってくれた鳥の進化の謎の件も含めて、川上さんは、つまるところ、鳥を媒介として「面白い」「すごい」を探している。

 個々の鳥で特に好きだと思うようなものはない、などと言いつつ、実はそういった驚きをもたらしてくれる鳥類に病みつきになっている。その事自体は、否定しようがないだろう。鳥の研究に魅了され、その背後にあるもっと大きな物語を知りたい知りたいとばかりに、収蔵庫の骨の群れと対話し、過酷なフィールド活動を続けているわけだ。

 ぼくも、鳥の進化と生態系をめぐる「面白い」「すごい」にみちた壮大な物語を少しばかり垣間見せてもらい、やはり大変楽しく、また続きを知りたいと願う。

ぜひ続きを!
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おわり

川上和人(かわかみ かずと)

1973年、大阪府生まれ。鳥類学者。農学博士。国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所 鳥獣生態研究室 主任研究員。1996年、東京大学農学部林学科卒業。1999年に同大学農学生命科学研究科を中退し、森林総合研究所に入所。2007年から現職。『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』(新潮社)、『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』『そもそも島に進化あり』(技術評論社)『外来鳥ハンドブック』(文一総合出版)『美しい鳥 ヘンテコな鳥』(笠倉出版社)などの著書のほか、図鑑も多数監修している。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『天空の約束』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からは、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)をはじめ、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「「秘密基地からハッシン!」」を配信中。