第3回 外来種の駆除を保全の目的にしてはならない理由

 海鳥が、森を作る。

 海鳥が、海で魚やイカなどを食べて、陸上でフンをすることで、栄養となるリンや窒素を森にもたらす。川上さんの研究で、そんな物質循環のビジョンが見えてきた。

 そこで疑問に思うのは、こういった物質循環のありようが、森林にどのような変化を与えるのかということだ。海鳥がいるのといないのとでは、島の植物をはじめとする生き物の体を形づくる元素の「同位体比」が違うと前回書いた。ただ、それらは化学的には同じ物質だから、見た目も同じだ。もっと目に見える違いは出てくるのか。

 ぼくの素朴な疑問に対して、まず本当に目で見える大きな違いがあると川上さんは請け合った。

「これは、南硫黄島の近くの北硫黄島と比べるとすぐにわかります。人が住んで、ネズミが入って、ミズナギドリの仲間がいなくなった北硫黄島の森林って、もう見た目で南硫黄島の森林と違うんです。どんな違いだと思います?」

小笠原の鳥の生態を研究している川上和人さん。
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 海からの物質輸送があったほうが栄養豊かなのだろうから、それがない北硫黄島は森林が貧弱であるとか、そういう方向であろうとぼくは予測した。

 しかし、見事に外れた。「逆」なのである。

「海鳥がいて島中で繁殖すると、あたりを踏み荒らして、地面は荒れた状態になるんです。森の中も林床の植物がまばらになります。一方で、海鳥がいなくなると、栄養分は十分に蓄積されている状況で踏み荒らすやつらがいなくなって、植物がすごく育ちます。見た目としても、そっちのほうが豊かな森というふうに見えます。つまり、海鳥がいない方が豊かに見えちゃうってことなんです。我々も、南硫黄島の調査をすることではじめてそういう認識を得て、今では共通認識にはなってきていると思います。そういう目で見たら、たとえば、御蔵島には森の中でオオミズナギドリが繁殖しますけど、踏まれてあまり林床に植物がない状態ですからね」

ミズナギドリがいる南硫黄島の森。(写真提供:川上和人)
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ミズナギドリがいなくなった北硫黄島の森。(写真提供:川上和人)
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