第3回 外来種の駆除を保全の目的にしてはならない理由

「悪夢のような時代は終わったと思います」と川上さん。
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「昔はもう無我夢中で、例えば『とりあえずヤギが希少な植物を食べてるから問題だ。だからヤギを駆除しよう』っていうレベルでやっていたわけです。でも、実際にやってみると、ヤギがいなくなると生えてきたのは外来植物だったと。だから、今ではヤギを駆除するためには、先にその外来植物を駆除しなきゃいけないですとか。とはいえヤギが食べて裸地になったところはヤギを取り除いても元には戻らず、土壌が流出してしまいます。岩盤が露出して、もしも自然にまかせたら、新しい土壌ができて元に戻るまで数万年はかかるねって話になりますよね。その間に、土壌動物は生息地を失って絶滅していきます。だから今度は土壌流出を止める手立てが必要です。駆除をすると同時にやらなければならないことがたくさんあって、これまでは応急処置的に対応してきたんですが、今はどんな場合に何が起きるか、かなり見えてきているとは思います」

 小笠原のヤギは、外来種として駆除すべき対象であるわけだが、それにしても、駆除する前にこれだけのことを気にしなければならない。外来種をすべて排斥の対象として、生態系の中で機能を果たしているものを安易に駆除すれば、本来の目的だった在来生態系の保全が脅かされることすらある、というのがイメージできる。

リファレンスを得るのがいかに大切か。
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 また、もう一例として、ネズミの駆除の話も印象的だった。かいつまんで言うと、小笠原の離島に入っている外来のネズミにはクマネズミとドブネズミがいる。どちらか片方が先に入ると、もう片方は入ってこない。この時にどっちに占有されるかによって、島の鳥たちの運命が変わる。クマネズミは木登りがうまく、木の上に巣を作る鳥も捕食してしまう。ドブネズミはそれほど木登りをしないので、樹上で営巣する鳥は生き残る。絶滅危惧種のオガサワラカワラヒワなどは、クマネズミがいる島からは消え、ドブネズミがいる島では残っていることが観察されている。では、オガサワラカワラヒワがいる島で、外来種であるドブネズミを駆除したらどうなるか。そこに、クマネズミがやってきて増えれば、ドブネズミを駆除したことをきっかけにカワラヒワが絶滅しかねない。防ぐためには、ドブネズミの駆除の後に、まわりの島からクマネズミが侵入しないようモニタリングするなど工夫が必要になる、などなど。

 結局、生態系の保全のためには、生態系の成り立ちと、ダイナミクスをより詳しく知ることが基本になるのだとよく分かる。

オガサワラカワラヒワ。ほぼスズメぐらいの大きさの鳥。(写真提供:川上和人)
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つづく

川上和人(かわかみ かずと)

1973年、大阪府生まれ。鳥類学者。農学博士。国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所 鳥獣生態研究室 主任研究員。1996年、東京大学農学部林学科卒業。1999年に同大学農学生命科学研究科を中退し、森林総合研究所に入所。2007年から現職。『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』(新潮社)、『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』『そもそも島に進化あり』(技術評論社)『外来鳥ハンドブック』(文一総合出版)『美しい鳥 ヘンテコな鳥』(笠倉出版社)などの著書のほか、図鑑も多数監修している。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『天空の約束』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からは、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)をはじめ、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「「秘密基地からハッシン!」」を配信中。