人の子を食べた鬼子母神の「子授け銀杏」、改心の物語

東京、雑司ケ谷にある鬼子母神堂の「子授け銀杏」(Photograph by Diane Cook and Len Jenshel)
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 安産と子育ての神様を祀る雑司ケ谷の鬼子母神(きしもじん)堂は、1578年に建立された。境内には「子授け銀杏」と呼ばれる都内最大級のイチョウがあり、樹齢は700年以上と推定される。鬼子母神を信仰する女性に子を授け、安産を約束し、生まれた子を守るなどのご利益を授けてくれるといわれている。

 だが鬼子母神は、初めから慈悲に満ちた守り神として知られていたわけではない。自身も数千人の子をもつ母であった鬼子母神は、日頃はよその子をさらって食べては、わが子を養っていた。

 子を奪われた母親たちは嘆き悲しみ、釈迦に助けを求めた。釈迦は鬼子母神を懲らしめるため、鬼子母神の末の男の子をさらい、茶碗をかぶせて隠した。鬼子母神は、姿の見えないわが子を求めて半狂乱で世界中を駆け巡り、釈迦にすがった。

 数千人のうちの一人を失ってもこれほどつらいのだから、たった一人の子を奪われた母親たちの苦しみを考えてみよ――釈迦にそう諭されると、鬼子母神は心を入れ替えて、以後、子供の守り神となることを誓った。

 世界中にある歴史的かつ魂を揺り動かす樹々を写真に収めてきたダイアン・クックとレン・ジェンシェルは、日本を訪れた際、この子授け銀杏もカメラに収め、その物語に耳を傾けた。ナショナル ジオグラフィックの『心に響く 樹々の物語』に、その一枚が収録されている。

 イチョウは雌雄異株、つまり雄の木と雌の木がある植物だ。雄株は花粉を生じ、受粉した雌株は、地面に落ちると強烈な臭いを放つ実をつける。

 ちなみに鬼子母神堂に祀られている神様は女性だが、このイチョウは雄株だ。

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