ブドウ園を見守り続ける「証拠の木」

 木と人間に共通点はたくさんある。木も私たちも垂直に立ち、枝がある。その姿は地平線上に突出して見える。樹木と人間は、呼吸の循環を共有している。

 今、生きている古木は、当然ながら、長い年月を生き延びてきた樹々だ。私たちは、その古木が乗り越えてきた対象が、自分たち人間であることをあまり認めたがらない。

 あらゆる古木は生き残った木であり、あらゆる森は過去の遺物だ――そう私たちが考えるとき、それは何を意味するのか。もし私たち人間が一つの生物種として、いつの日か、自制心というものを身につけることができたなら、そして樹々や森を「生き残り」としてではなく、私たちと同じ地球の住人として見ることができるようになったなら、豊かな自然を育む地球の底力に、私たちはきっと驚くだろう。

 ナショナル ジオグラフィックの『心に響く 樹々の物語』は、そんな隣人としての樹々と人間の物語を、ダイアン・クックとレン・ジェンシェルによる美しい写真でつづる本だ。ここではその中から、米国オレゴン州にあるブドウ園を見守ってきた「証拠の木」を紹介しよう。

米国オレゴン州の州都セイラムにある樹齢250年のオレゴンナラ。ブドウ園を見守る「証拠の木」だ(Photograph by Diane Cook and Len Jenshel)
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木は「動かぬ証拠」

 米国オレゴン州の州都セイラムにあるウィットネス・ツリーブドウ園の名は、ワイナリーを見渡すように立つ樹齢250年のオレゴンナラにちなんでいる。

 1854年7月8日、このオレゴンナラの幹に、ある標識が刻まれた。それは、この木の立つ場所が、政府から無償で払い下げられた「51番」という土地の北西角であることを示すものだ。1850年に施行された公有地の払い下げに関する法律は、それ以前からオレゴン準州内で開拓を進めていた入植者に、土地の所有権を認めるものだった。条件を満たしていたクレイボーン・C・ウォーカーと妻ルイーザは、ウィラメット渓谷の260ヘクタールにおよぶ土地の所有権を、「完全に無償で」手にしたのだ。

 1800年代の測量では、石や岩を積んで境界線の標識にすることが多かったが、角の標識には頑丈な樹木が好まれた。勝手に動かすことができないからだ。隣人の所有地を流れる小川や肥沃な土壌をうらやむ者が、標石を動かしたという類の話は枚挙にいとまがない。500年もの樹齢となるオレゴンナラなら、動かぬ証拠(ウィットネス)として頼りになる。今日この木は、風格あふれる姿で、ピノ・ノワールとシャルドネを主に栽培する40ヘクタールのブドウ園を見守るように立っている。

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