第3回 やせるVR、泣けるVR、好きになってしまうVR

「試着室の鏡が、感情を変える鏡だったらどうなるかと考えて行ったものです。例えば白と黒のマフラーをつけてもらいます。被験者は、最初はどちらが好きということはないんですが、白を首に巻いた瞬間に顔をニコッとさせる。そうすると『あ、これ似合ってるな』とか、『これ好きだ』と思っちゃうわけです。で、どっち買いますかっていうと、白を選んじゃう」

 頭の中でその様子をシミュレーションしてみる。

 身につけたものが「似合う」かどうかは、身につけた自分が「いい感じ」に見えるかどうかで判断するのだろうし、鏡の中でニコッとしている自分は「白いマフラーをつけた自分」の不可分な一部だ。とすると、鏡に映った自分が自然にニコッとしている状態というのはとても「いい感じ」であっで、マフラーも「似合う」と感じるに違いない。

「実は感情って、我々のいろいろな判断の根源になってるので、感情に影響を与えると判断が変わっちゃいますよっていうことが、結構鮮やかに示せたわけです」

 ひとつ言えるのは、こういう研究を進める中で、人の自由意志であるとか、自主性とはなんだろうと、人間のあり方のイメージそのものを問い直さざるをえないということだ。やはり、ちょっとぞくっとする。

 鳴海さんはこういう研究をする時にはどんなふうに考えているのか聞いてみたい。

「涙眼鏡」を試す女性。
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つづく

鳴海拓志(なるみ たくじ)

1983年、福岡県生まれ。東京大学大学院情報理工学系研究科 講師。博士(工学)。2006年、東京大学工学部卒業。2011年、東京大学大学院工学系研究科博士課程を修了。同年、東京大学大学院情報理工学系研究科の助教に就任し、2016年4月より現職。日本バーチャルリアリティ学会論文賞、経済産業省Innovative Technologies、グッドデザイン賞など、受賞多数。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『雲の王』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)など。近著は、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、どこまでも遠くに行く宇宙機を打ち上げる『青い海の宇宙港 春夏篇秋冬篇』(早川書房)。また、『動物園にできること』(第3版)がBCCKSにより待望の復刊を果たした。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。