第3回 やせるVR、泣けるVR、好きになってしまうVR

「感覚が変われば行動が変わる研究をしていたちょうどその時に、認知科学のトピックで『身体化情動』というのが出てきたんです。これは、行動ですとか体の状態が変わると、感情が変わるというやつです。例えば、背伸びをしたり、大きく体を動かすとポジティブになる。逆に落ち込んだ人は縮こまっていますよね。僕は五感を変えると行動も変わるって研究をしていましたけれど、行動を介して感情とか気持ちとか判断とかも変わるんだっていうのがだんだん研究のテーマにも入ってくるようになりました」

 ここまで来て気づくのは、まさにこのテーマを具現化したのが、連載の初回で紹介した「扇情的な鏡」だ。行動が変われば感情が変わる、ということを鮮やかに示している。(第1回参照)

 この「扇情的な鏡」の研究を推進したのは、現在、研究室の助教である吉田成朗さんで、吉田さんの別の「作品」である「涙眼鏡」というものも紹介してもらった。

これがその眼鏡。目元あたりから涙のように液体が流れ出るようになっている。
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「勝手に涙が出るメカです。かけていただくと、ポタポタと液が出てくると。で、この頬をつたう水の触覚を与えられると、すごく悲しくなってしまう。この眼鏡をして映画かなにかを見たとして、あるシーンで液体が出てくる信号を出すと、ちょうどそこですごく悲しくなってしまう。これ、着けている本人が悲しくなるだけじゃなくて、まわりの人にもうつっちゃうんです。『情動伝染』っていうんですけど、装置をつけた人がボロッってなると、それを見ていた隣の人も悲しくなっちゃう」

「涙眼鏡」。意図のない映像を流しているだけだが、眼鏡から液体が流れる触角の影響を受けて悲しくなってしまう。(字幕は英語です)

 こうなると、感情というのが、感染症のようにうつり、増殖していくもののように思えてくる。

 感情を変えうる手段がかくも掘り下げられていくと、ある意味、マインドコントロールの手段にもなりうるように思う。鳴海さん自身、「ちょっと危険な研究なんですが」と前置きしつつ、こんな研究も紹介してくれた。