第2回 絶滅危惧種の「野生復帰」とはどんな取り組みなのか

 日本獣医生命科学大学獣医学科で、野生動物学研究室を主宰する羽山伸一教授は、1980年代から、日本の野生動物、とりわけ絶滅危惧種の問題に深くかかわって、専門的な知識を深めつつ、現場での取り組みを進めてきた。

 だから、まず聞きたい。「野生復帰とはなんですか」と。

 一般的にはまだ良く知られていない概念だし、ぼく自身、関心を持っているわりには混乱気味だ。

日本獣医生命科学大学教授の羽山伸一さん。
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 野生復帰は、英語では"Reintroduction"で、素直に訳せば「再導入」だ。なのに、日本語では「野生復帰」の方が一般によく使われるし、ぼくも使ってきた。しかし、ちょっと不正確な言葉づかいをしているようで、居心地が悪くもある。

「そのへんの言葉を意識して使い分けているメディアは少ないと思います。例えば、コウノトリやトキの『野生復帰』について語られますけど、あれは、すでに絶滅した場所に新たな人工の集団をつくるので『再導入』です。野生で絶滅した動物をもとの生息地に戻す場合は、野生復帰がそのまま『再導入』になるんです。でも、ツシマヤマネコは、幸い絶滅していないですよね。まだ野生のものが生き残っているところに放すのですから、『再導入』ではなく『補強』です。でも、これも野生に戻される個体の立場に立つと野生復帰なんですよね」

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 野生復帰というのは、文字通り、飼育下にいた動物が野生に戻ることを指す。戻される動物にしてみれば、「再導入」も「補強」も大して違いはなく、両方とも野生復帰だ。もっと言えば、交通事故で怪我をして一時的に飼育されていた個体が、回復してもといた場所に戻されるのも野生復帰だ。

 結局、"Reintroduction"を「野生復帰」と訳すとき、着眼点を人間側から動物側へくるりと反転させているのかもしれない。これまで引っかかりを覚えていたのはまさにその点だったようだ。一応、問題の所在がわかってすっきりしたので、今回は、「再導入」も「補強」もまとめてしまえる「野生復帰」を使い、区別が必要な時だけ「再導入」「補強」を使うことにする。