哲学者プラトンが元凶、世界が夢見たアトランティス

 プラトンはおごれる者の寓話を見事に描いたが、あまりにも緻密な描写とアトランティスをめぐる熱狂のため、物語が持つ真の意味はかき消されてしまったようだ。やがてアトランティスは、失われた世界や理想郷の代名詞のようになり、伝説とともに様々な文化に浸透していった。

 「アトランティス伝説は誰にでもなじみやすく、どこの国でも受け入れられる」と、19世紀に活躍したプラトンの著書の著名な翻訳者、ジュエット博士は書いている。「アトランティスは雲の中に浮かぶ島のようなものだ。信じる者にはどこででも見えるのかもしれない」

 冒頭に掲載した地図は、アトランティス伝説が地図作りに関わった稀有な例だ。ドイツの学者アタナシウス・キルヒャーは、プラトンの説明に従って大西洋の真ん中にアトランティスを描いた。キルヒャーは、風変わりな著書『地下世界』(1665年)でアトランティスにも言及している。この本は、地球の火山系の研究結果を示した挿絵「炎の運河」でも有名で、地球は「中身の詰まった塊ではなく、いたるところに裂け目が入り、えぐり取られた空っぽの隙間と空洞があり、隠れた穴もある」と説明し、恐ろしい火山は「自然が呼吸するための管、つまり通風孔にすぎない」と記している。

アタナシウス・キルヒャーが1665年に描いた「炎の運河」。地下世界でつながっている火山の様子。
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 アトランティス伝説が廃れることはなかったが、学術的な扱いを受ける機会は減り、どちらかといえば偏った思い込みの領域へと追いやられていった。作家ロレンス・ダレルの『海のビーナスの思い出』(1953年)には、医学では分類できない病気のリストを見つけるくだりがある。

「その中にイスロマニア(島偏愛狂)という言葉があった。(中略)世の中には、どういうわけか島というものにたまらなく惹きつけられる人々がいる。自分が島にいる、海に囲まれた小さな世界にいると思うだけで、彼らは何ともいえない満足感に満たされる。こうした生まれながらのイスロマニアは(中略)アトランティス人の直系の子孫だ」

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