嘘の国を売った史上最悪の詐欺師、270人が死の入植

 ナショナル ジオグラフィックの書籍『世界をまどわせた地図』で紹介する国、島、都市、山脈、川、大陸、種族などは、どれもまったくの絵空事だ。しかし、かつては実在すると信じられていたものである。なぜだろう? それらが地図に描かれていたからだ。

 神話や伝承として語り継がれていたものもあれば、探検家の間違いや誤解から生まれたものもある。なかには、名誉のため、あるいは金銭を集めるための完全な「でっち上げ」すらある。その代表例として、ここでは「ポヤイス国」の物語を紹介する。史上最悪の詐欺師グレガー・マグレガーによる嘘の国だ。

世界一の大ぼらふき、グレガー・マグレガー

「ポヤイス国領主グレガー殿下」の肖像。
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 世の中には厚顔無恥な嘘つきも、鉄面皮の詐欺師もいるが、グレガー・マグレガーほど壮大な大風呂敷を広げたものはいないにちがいない。

 1822年頃のヨーロッパは不景気の中にあり、コロンビアやチリ、ペルーなどの南米の国々はチャンスを期待する投資家たちの人気を得つつあった。それらの国の国債は利回りがよく、見逃せないもうけ話だったのだ。そんな時代に、モスキート・コースト国のジョージ・フレデリック・アウグストゥス王から授けられたという、まばゆいばかりのメダルと勲章を下げた1人のカリスマがロンドンに姿を現した。彼は「ポヤイス国の領主」を名乗り、土地を譲渡するという王から与えられた書面をちらつかせ、手放しの歓迎を受けた。

 彼が得体の知れない男であったなら、もっと警戒されていたかもしれない。しかし、グレガー・マグレガーは名の知れた人物だった。マグレガー一族の出で、ロブ・ロイの甥の孫息子にあたり、1811年のアルブエラの戦いで勇敢に戦った第57歩兵連隊に所属し、国外の激しい戦闘に派遣されて何度も死線をくぐり抜けてきたことで知られていたのだ。彼はいわば英雄だった。

 そんな人物が、魅力的なポヤイス国のジョゼファ王女を連れて冒険の旅からロンドンに戻り、できたばかりの自分の国に投資してくれる人間を探しているというのだ。しかも、彼の新たな母国には、天然資源が豊富な800万エーカーほどの美しくよく肥えた土地があり、作物を育てれば豊作まちがいなし、海では魚も食用になるカメも豊富にとれる。町から少し離れれば狩りの獲物もどっさりいる。また、川は「純金の粒」でいっぱいだというのだ。

ポヤイス国のブラックリバー港の風景。実際には、このような場所は存在しなかった。
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