第2回 「嘘は見破れる」はウソだった

 時は1999年。文京学院大学・村井潤一郎教授は、当時、教育心理学研究室に籍をおく大学院生でありつつ、すでに「欺瞞的コミュニケーション」にまつわる論文を発表しており、「嘘の心理学」の研究者として歩み始めていた。

 一般の人よりも、深く嘘について思い巡らし、考察を重ねていたであろう村井さんは、友人と一緒に訪ねたスペインのマドリードで、とある「だまされ体験」をすることになる。

嘘の心理学を専門とする村井潤一郎さんの「だまされ体験」とは。
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「一言でいえば、私が数万円だましとられたっていう話なんですけれど──マドリードの有名な美術館でソフィア王妃芸術センターっていうのがあります。ピカソのゲルニカが置いてあるところです。その前に広場があって、私は友達と2人で立っていたわけです。すると、かばんをたすきがけにした若い男性が地図を片手に話しかけてきました。道が分からないってちょっと泣きそうなかんじで。私たちは彼が行きたい場所が分かったので、道順を説明していたら、警官がやってきて、こんなとこで何で両替なんかしてるんだ、最近は偽札が横行していて問題になってるぞと。やたら『フェイクマネー、フェイクマネー』って言うわけですよね」

 読者は、この時点でなにかあやしいぞ、と思ったことだろう。これは、すでに「だまされ体験」を経て、あやしいことを知っている村井さんの口から聞くからであって、同じ状況にいたらと思うと、少なくともぼくは心もとない。なんか変な展開になってきたぞと思いはしても、まだ、「だまされている」とは思っていないだろう。

「私たちにしてみれば、道を聞かれて、教えて、いいことをしているわけですよね。もうムカついちゃって。『両替なんかしてないよ』って言ったら、『偽札じゃないなら金を見せてみろ』って言われて、見せる時点でハマッちゃってます。お金を見せたら、その場でばーっとチェックされまして、OKということで返してもらいました。疑いが晴れてよかったねと旅行者とも別れて、その後でふと思ったんです。あ、これってもしかして『地球の歩き方』なんかにもよく出てくるニセ警官かって。そこで、返してもらったお金を見たら、ちょっと減ってたんですよ。警官は半袖でしたし、どうやって抜き取ったのか分かりません。マジックですよ。結局、最初に近づいてきた旅行者からしてグルだったわけで、見事にだまされたんです」

本誌2017年6月号でも特集「なぜ人は嘘をつく?」を掲載しています。Webでの紹介記事はこちら