第6回 なぜ薬物使用疑惑をスクープにしてはいけないのか

「もうひとつは、一般人の代表としてタレントさんがコメントするのは構わないんだけど、時々、おかしなコメントになるときがあるんです。そこを『いやいや、そうじゃなくて、実はこうなんですよ』って専門家の意見も挟んだほうがいいと思うんです。例えば、ある芸能人が覚せい剤の使用で捕まったときに、捕まえに来た捜査員に『ありがとうございます』って言ったんですね。この言葉をとらえて、スタジオのタレントさんが『何がありがとうございますだ』『ふざけんな、軽いね。反省が足らない』とかって言ったんです。私の外来に来る覚せい剤依存の患者さんも、多くは逮捕経験があるんですけど、ほとんどの人が、逮捕された瞬間に『ありがとうございます』って言うんですよ。その瞬間に、これでやっと薬がやめられる、もう嘘の上塗りをしなくてもいいって思うからなんです」

薬物報道の仕方によっては、さらに使用者を増やす可能性があるという。
[画像のクリックで拡大表示]

 つまり、あの「ありがとうございます」は、これまでその人がいかに悩んでいたか、苦しんでいたかを示す言葉なのだ。決して、軽い言葉ではなく、むしろ重い。その機微を理解し、「実はこうなんだ」と語ることができる人が、メディアには必要ということだ。

 実際に薬物使用からの回復にかかわる人でないと分からない機微は、ほかにももっとたくさんある。関心がある方々のために、その試案を掲示する。薬物報道について「望ましいこと」と、「避けるべきこと」の2つに分けて列挙されており、まず、「望ましいこと」から。

・薬物依存症の当事者、治療中の患者、支援者およびその家族や子供などが、報道から強い影響を受けることを意識すること
・依存症については、逮捕される犯罪という印象だけでなく、医療機関や相談機関を利用することで回復可能な病気であるという事実を伝えること
・相談窓口を紹介し、警察や病院以外の「出口」が複数あることを伝えること
・友人・知人・家族がまず専門機関に相談することが重要であることを強調すること
・「犯罪からの更生」という文脈だけでなく、「病気からの回復」という文脈で取り扱うこと
・薬物依存症に詳しい専門家の意見を取り上げること
・依存症の危険性、および回復という道を伝えるため、回復した当事者の発言を紹介すること
・依存症の背景には、貧困や虐待など、社会的な問題が根深く関わっていることを伝えること