第4回 「分離脳」だから分かった感覚のつながりとは

「時間の知覚」「感覚統合」「脳の性差」といったことを研究する四本さんは、「地味」「細かい」と自分では言いつつも、とても興味深い研究を推し進めている。

 すでに「時間の知覚」だけでも、興味津々ではちきれそうなほどの研究の最先端のお話を伺った。お腹いっぱいに近い。

 このあたりで趣向を変えて、四本さんがどんなふうにしてこの研究にたどり着いたのか聞いておこう。

子どものときから知覚に興味があったという四本裕子さん。
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「今思えばですけど、やっぱり自分の知覚、内的な体験というのについて、思いをはせるような子どもでした。幼稚園だか小学校の低学年ぐらいのときに、私が見ている赤い色が、他の人が見ている赤い色じゃなかったとしても、それはどうやったら証明できるんだろう、みたいなことをちょくちょく考えてたんです。それって、まさに自分の中での知覚というものをどう定量的にはかって、他の人と比べることができるのかってことなんです」

 いきなりすごい話だ。

 自分が見ている赤が、他の人が見ている赤と同じかどうか、わりと小さい頃に疑問に思った人は多いと思う。でも、ほとんどの人は、そういうものを一過性の疑問として忘れてしまう。四本さんは、そこで踏みとどまり「どうやったら証明できるんだろう」という課題として考え続けた。

「そんな背景もありつつ、大学に入って網膜に並んでいる細胞の働きを学んだときに、神経節細胞という、素敵な細胞があるのを知ったんです。これがとっても賢いんです。網膜で一番最初に光を受容してから、本当に1、2、3ステップ目ぐらいのところにあるんですけど、周りの細胞と洗練された接続をしていて、まだ脳にもいかない網膜にある細胞なのに、例えば丸い形をすでに認識するんです」

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 目は脳の一部、というふうなことを聞いたことがあるけれど、実際に網膜上で、かなり高度な情報処理、画像処理が始まっているというのである。そして、網膜で巧妙に前処理された情報が脳の視覚皮質に届くと、さらに高度、かつ巧妙に、視覚という知覚をつくりあげていく。

 一連の仕組みを理解した時、四本さんは「鳥肌がたつほど感動したんです」と強調した。自分にとっての赤と、他人にとっての赤を、どう比べて証明すればいいか考え続けてきた人にしてみれば、こういった機序の理解は、輝かしいものだと想像できる。