第5回 バンパイアと人狼、伝説誕生の経緯を検証する

 2006年、当時フィレンツェ大学の法医学・考古学者だったマッテオ・ボリーニが、ベネチア近郊で、16世紀に大流行したペストの犠牲者が埋葬された集団墓地から一人の老女を発掘した。なんと、この遺体の口にはレンガが詰め込まれていたのだ。バンパイアとしてよみがえっても攻撃させないようにするためだったとみられる。

吸血鬼になる疑いのある遺体は、口にレンガを詰め込まれて埋葬された。(National Geographic Television)
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■死、病、そして腐敗

 吸血鬼信仰がピークを迎えたのは中世のことだ。まだ疫病についての知識はなく、死体がどのように腐敗するかもわかっていなかった。こういう状況の下、憶測が憶測を生み、一種のヒステリーのように恐怖が広がっていった。

 誰かが伝染病で死ぬと、埋葬時にバンパイア化を防ぐ仕掛けが施された。レンガを口に詰めるのはその一例で、死体がよみがえって他の人に疫病をうつさないようにしたのだ。当時は結核やコレラなどが猛威を振るい、特にコレラは17世紀の東欧で広く恐れられた。

 疫病が大流行すると、墓掘り人は犠牲者が出るたびに何度も墓を掘り起こすはめになる。当然、腐敗が進んだ古い遺体が目に飛び込んでくる。例えば、亡くなった人の内臓が腐敗すると、鼻や口から血のような黒い液体が流れ出ることがある。遺体の口や鼻から流れ出る液体を吸血鬼と結びつけた可能性は十分にある。

 埋葬時に遺体を包む白布は腐敗液を吸って重くなり、口の部分が窪んで裂けることがある。遺体が布を噛み裂いたように見えたこともあっただろう。その結果、吸血鬼になると布を噛むという迷信が生まれたとマッテオ・ボリーニは考えている。

 一般に、遺体が腐敗すると腹部にガスがたまり膨らんでくるが、これも吸血鬼の証拠と考えられた。吸血鬼を恐れる人たちの目には、襲って食べた人肉で腹が膨らんだと映る。遺体の皮膚は縮むため、相対的に爪や歯が大きく長く見えたことも恐怖に拍車を掛けた。

 吸血鬼の伝説は姿を変えながらも連綿と語り継がれてきた。次の新しい吸血鬼伝説が生まれるのは時間の問題だろう。それが想像上の怪物なのか、それとも実物なのか、誰にもわからない。

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