第3回 酸素や水は? 「火星基地」に必要なもの

火星研究基地のイメージ。長期におよぶ居住計画では、この図のような基地の完成形を目指し、インフラを整備していくことになる。(Kenn Brown/Mondolithic Studios)
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 人類が火星に降り立ったとき、そこに建設する基地、あるいは住居は、どのようなものになるのだろうか。火星の住まいに求められる条件とは何だろうか。

 まず火星は、気温の差が極めて大きい。赤道付近の気温は30℃前後だが、極付近ではマイナス140℃の超低温になる。なお悪いことに、火星の土壌には甲状腺の機能に悪影響を与える有害物質の過塩素酸塩が高い濃度で含まれている。人にやさしい場所とは言いがたい。さらに、大気がうっすらとしかないため、火星の地表で活動する人間は、致死的なレベルの宇宙放射線にさらされることになる。地球のようなオゾン層はなく、大気圧も総じて低いため、地面には常に強い紫外線が降り注ぐ。宇宙医学の専門家は、火星での探査作業に携わる宇宙飛行士たちの放射線被曝に関して以前から警鐘を鳴らしている。

 宇宙建築家や宇宙技術者は、これらすべての要素を考慮したうえで、火星での住居を設計しなければならない。最初の仕事は、どうやって呼吸するかを考えることだ。火星の大気濃度は地球の約100分の1。これは地球で言えば海抜30キロメートルに相当する。しかも、大気の95パーセントは二酸化炭素(CO2)で、純粋な酸素はほとんどないも同然である。

■酸素や水を作り出す

「それでも幸運なことに、1個の二酸化炭素分子には酸素原子が2個ずつ含まれています」と語るのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)ヘイスタック天文台のマイケル・ヘクト氏だ。「電気が十分にあれば、CO2から酸素ガスを作り出すことは可能です。実際に植物は年がら年中その仕事をしているでしょう!」

 2020年に予定されているNASAの火星探査車ミッションでは、植物が酸素を作り出す過程を再現できる「MOXIE」と呼ばれる特殊な装置が搭載されることになっている。MOXIEは火星大気中のCO2を集め、電気分解で二酸化炭素を一酸化炭素(CO)と酸素(O2)に分解する。2020年の火星ミッションでMOXIEがうまく機能することが分かれば、火星で酸素を量産し、さらに地球に帰還するためのロケット燃料となる液体酸素を作り出せるようになるかもしれない。

 MOXIEはこれまでにない種類の試みだとヘクト氏は言う。彼の言葉を借りれば、MOXIEは「本来なら地球から持っていくはずのものを、自然界にあるもので代用する技術」ということになる。次の問題は、人間が生命を維持するために十分な量の水が火星で手に入るかという点だ。

2015年に探査車キュリオシティがシャープ山で撮影した写真。過去に水が流れたような跡があったため、波紋を呼んだ。(NASA/JPL-Caltech/MSSS)
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 2006年以降、NASAのマーズ・リコネッサンス・オービターが火星を周回しながら、高解像度カメラ(HiRISE)で惑星全体の詳細画像の撮影を続けている。「HiRISEのおかげで火星は身近な場所へと変わりました」と説明するのは、アリゾナ大学の惑星地質学教授でこのカメラの主任研究員を務めたアルフレッド・マキューエン氏だ。「HiRISEが撮影した画像を見ると、火星では不思議なプロセスが進行しているようです。たとえば、火星では冬に二酸化炭素の霜が現れるのですが、霜が降りると粒子が液体のように流れてガリー(溝状の地形)を刻んでいるらしいのです」

 このガリーは、地球で水の作用によって生み出される地形と似ている。2014年に火星の専門家たちは、火星のあちこちに液体の水が流れた痕跡があるという強力な証拠を示した。「火星で大量の水が見つかったとなると、状況はまったく変わります」と、NASA科学ミッション局科学・探査部門副部長のリック・デイビス氏は話す。

 とはいえ、人間の生活に足りるだけの水が出る蛇口を火星で見つけ出す作業は、まだこれからだ。火星で手に入る氷、含水鉱物や地中深くの帯水層から、人間が使えるような水を取り出すためには何が必要になるのだろうか。水へのアクセスを考えて最適な火星基地の立地を決めるために「私たちは、もっと頭を使わなければなりません」とデイビス氏は助言する。

■火星の資源で基地を拡張

 火星に設営された仮の住まいは、有人ミッションと無人輸送機ミッションを何度も重ねながら拡大を図ることになるだろう。現地には組立部品が次々に届き、一定のペースでインフラが拡大されていく。このような段階的プランはNASAのラングレー研究所でも検討されている。同研究所の最重要原則は「地球から運ばれる資源の不足をやりくりするのではなく、火星の豊富な資源を活用する」というものだ。

国際宇宙ステーションで使用されている、米メイド・イン・スペース社製の3Dプリンター(手前)と、このプリンターを使って製造された完成品(プリンターの上)。(NASA/Emmett Given)
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 最初に2人のクルーが火星に行って、小型の住居を地中に設置し、燃料や生命の維持に必要な水、食料を保管する貯蔵庫とつなげる。燃料と水は火星の地表に蓄えられた氷や、大気から採取できるはずだ。廃水はリサイクルして食物の栽培に利用する。やがて火星基地は、地球から独立するための多くの新技術を試す試験場と化すだろう。うまくいけば、燃料や酸化剤、生命維持装置、予備の部品や探査車、住居など、深宇宙を目指す旅に必要となる様々な製品を供給できるようになるのではないだろうか。

 一つの目標は、火星で探査車を1台まるごと作り上げることだ。プラスチックは火星の資源を使って調達し、金属部分は突入、降下、着陸で使われて不要になった部品を再生する。3Dプリンターの力は、すでに国際宇宙ステーション(ISS)でも実証済み。ISSでは、3Dプリンターを使って部品を作ることに成功した。従来のように地上で製品を用意し、ロケットを打ち上げて基地に届けるのに比べれば、ずっとわずかな時間で済む。ISSで製品を作れたのなら、火星でも作れるのではないだろうか。

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 関谷 冬華 訳
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