Episode1 キャプテン・クックが見落とした海域

 今回私は、この北米最大のフィヨルド海域を旅する機会を得た。
 それも、大型クルーズ船や、運送フェリーに乗船して運ばれるのではなく、2枚の帆を揚げて進む、小型セールボート(sailboat)を自分たちで操船してである。
(注・日本で馴染みの深いヨット(yacht)という言葉は、英語では「快走船」という意味で、帆船に限らず,パワーボート、豪華なクルーザーをも含む言葉なので使用しないことにする)

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 もともと私は、カヌー乗りだった。
 カヌーでは、向かい風が天敵。前には一向に進まず、ギブアップするしかない。
 そこで、向かい風をどうにか味方にしたいと考えた私は、カナダ在住時に、バンクーバーにある「ウィンドバレーセーリングスクール」に通った。
 帆船は、帆をうまく使うと、向かい風で進むことができるのだ。
 それにこのスクールは、海上に設置されたブイを周るだけの競技を目的とした従来の一般的なセーリングスクールとは違って、「航海」という旅の技術をも教えてくれる。
 風と帆の使い方の他、海図を理解しながら複雑な沿岸部を航行する方法、停泊に必要なアンカリングの仕方など、かつて大航海時代に発展した航海技術を、そのまま小型船舶に 置き換えて身に付けることができる。
 私はこのスクールで学んで10年ほどになる。結構、航海術も身についてきた頃だ。

 欧米では、紳士淑女教育の一環として、海や船との関わり方を教えるシーマンシップ教育が盛んで、大きな帆船に乗って集団行動を学ぶ子供航海キャンプなどもよく行われている。
 そんな様子を目にする度に、私の中にも「航海」という憧れが芽生えるようになっていた。
 そして、中世大航海時代や地中海海戦で使われたガレー船、世界を席巻したバイキング船、日本の北前船や日清日露を戦った日本艦隊にまで、私は幅広く船舶が好きになった。

 そんなことを言うと、日本では「女らしくない」と言われがちだが、バンクーバーの港を歩くと、颯爽と船を動かすカッコイイ女性たちをよく見かけるのである。
 お爺ちゃんとお婆ちゃんが、仲良く助け合って操船している姿も珍しくない。
 以前、70歳を超えるお婆ちゃんたちだけで、セールボートで世界を回っているというパワフル四人組に会ったことがある。
 私もまた、そんな風に生きたいと思っていた。
 そんなある時、
 このスクール船が特別プロジェクトとして、各地で生徒を乗せながら、バンクーバーとアラスカ間を往復するという。
 これは、乗らない手はない。
 クックが見落とし、自身の海図に記すこともなく、結局、生涯見ることがなかった北米沿岸フィヨルドを、私は見ることができるのだ。