Episode9 スピリット・ベア島の不都合な真実

 実は今回、どうしても行きたい所があった。
 プリンセス・ロイヤル島である。
 周辺の島々に住む沿岸インディアンたちの間で、「スピリット・ベア(精霊の熊)」、「雨の森のゴースト・ベア(幽霊熊)」と、古くから呼ばれている熊が生息していることで知られているのである。

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 なぜ、このような名前で呼ばれているのかというと、黒熊やグリズリー(ハイイログマ)とは違って、白い毛をしている熊だからである。
 と言っても、北極圏沿岸でアザラシやセイウチを狩って生息しているシロクマとは、一切関係が無い。
 本来は黒熊なのだけれど、突然変異による、白い黒熊なのである。
 なぜだか、奇妙にもこの島周辺だけ、白い熊が生まれ続けているのである。
 英語では、カーモード・ベア(Kermode bear)と呼ばれていて、この白い熊の毛皮を収集した白人で、ロイヤルBC博物館の館長であったフランシス・カーモードの名前が付けられている。
 これは、白人の間では一般的だが、現地のインディアンたちの間では使われていない。

 この白い黒熊には、古くから伝わる伝説がある。
 それは――、
 遥か昔、世界が長く、氷と雪で覆われていた頃のことである。
 ある日、一羽のワタリガラスが天から舞い降りてきて、白銀の世界を、草木で生い茂る緑の世界に変えた。
 そして、世界がかつて真っ白だったことを忘れないようにと、この森の黒熊たちから、白い毛のものが生まれるようにしていったのだという。
 それが、精霊の熊、スピリット・ベアなのである。