Episode8 クレムツ村のジョージの悲しい現実

 船旅というのは、とにかく天気に左右されるため、天気予報は、欠かしてはいけない重要な情報である。
 北米では、コーストガードがマリンウエザー情報を24時間、絶え間なく無線で流してくれているので、それを毎朝、毎晩、聞く。
 ガサガサと雑音が入る聞きづらい英語に耳を傾けていると、明後日の夕方から、北西高気圧による風速約35~40ノットのゲール(Gale)が吹くとの警報が出ていた。
 ゲールとは、「疾強風」のこと。
 船舶で使われる速さの単位であるノットを、日本で使われる風速に直すと約17m~20mくらいになる。これは、かなりの大風である。
 そこで私たちは、風が強まる前に、一気に船を進めて、クレムツ村の港に避難することにした。
 この海域の部族であるヘルシク(Heiltsuk)族と、シムシャン(Tsimshian)族の人々が住んでいて、古いトーテムポールが立つ、歴史と伝統を色濃く残す集落である。

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 クレムツ村の桟橋に到着すると、たまたま灰色の鉄の塊のような巡視艇が留まっていて、私たちは、その陰に隠れるように船を係留した。
 波や風が強くなってきても、その巡視艇がブロックとなってくれるだろう。まさに「寄らば大樹の陰」的な考えである。
 私はルカを連れて、その巡視艇が、海軍の船なのか、コーストガードの船なのかを確かめに行った。
 すると船には、ロイヤル・マウンテッド・ポリスと書かれてあった。
 その象徴でもある、王冠とバッファロー、メイプルリーフをモチーフにした紋章も描かれてある。

 私は「あれ?」と思った。
 海上では、海軍やコーストガードの船と出会うことは多々あるけれど、警察の船には今まで出会ったことがない。
 しかも、ロイヤル・マウンテッド・ポリスと言えば、カナダの連邦警察である王立カナダ騎馬警察のことである。
 英語でマウンテッドとは、騎馬という意味で、略して、RCMP(Royal Canadian Mounted Police)。
 都市部の街中でも馬に乗ってパトロールしている姿が有名で、特に、伝統的な赤い制服に、鍔の広い丸いハットを被り、馬にまたがり易いように、尻まわりに余裕を持たせたニッカボッカーズ・ズボンを履いた騎馬警察官は、姿もカッコ良く、カナダ観光の目玉でもある。
 カナダ人にとっても憧れの職業であり、親しみを込めて「マウンティーズ」と呼ばれている。
 と言うことで、王立カナダ騎馬警察と聞くと、私には、馬に乗っているイメージしかない。
 だから……、「なぜ、馬に乗っているはずのマウンティーズたちが、船に乗っているの?」 
 などと、私は、勝手に思ってしまったのだった。