Episode6 冒険家マッケンジーの謎の終着点

「ぐ、ぐ、ぐ……。グ、リ、ズ、リー……」
 船上から双眼鏡を覗いて見えたのは、北米の森の野生動物の中で、最強と言われるグリズリー(ハイイログマ)の姿だった。
 と言っても、私の目に映っていたのは、2匹のチビたち。
「ひゃ! カワイイ」

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 しかしながら、そんな悠長なことを言っている場合ではない。
 チビたちがいるということは、母熊もそばにいるということだ。
「母は強し」と言うように、チビたちを守ろうとする母熊ほど、攻撃的で怖いものはない。
 と、次の瞬間、堂々たる大きな体をした母熊が、ゆっくりと歩いてくるのが見えた。
 向こうもこちらに気が付いたようで、母熊が立ち上がって、私たちの様子を見はじめた。
 チビたちも母熊を真似て立ち上がる。
 なんだか、レンズ越しに母熊と目が合ったような気がした。

 まずい……、
 親子連れがいる沿岸には、私たちが上陸して狭い船内での疲れを癒すどころか、ルカのオシッコ散歩にも行けない。
 手間のかかる高度なアンカリングの準備をしていた私たちは、即決即断、この場所を離れることにした。
 こういう場合は、先客優先である。
 もしも私たちの方が早ければ、危機回避のために、「近づくな!」と騒音を鳴らして占有権を主張することもできたが、彼らのほうが先にこの海岸にいるのだから、彼らを追い払ってまで、私たちが居座るのは、私のポリシーに反している。

 しかしながら海図を見る限り、この周りには、他にアンカリングに適した場所がない。
 それが、両岸が切り立ち、水深がどん深になっているフィヨルド海域の難しさである。
 停泊場に相応しい、風の影響を受けず、また、アンカリングに適した水深を持つ入り江が、なかなか無いのだ。

 結局、私たちは、ユーコット・ベイの沿岸温泉に戻ることにした。
 戻るには全速でも5時間ほどかかるが、緯度が高く、日没が遅いのが幸いだった。

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