第4回 子どもにミルクやスープを与えるサメがいた!

 ミルクというだけあって、やはり高栄養食なのだろう。1年間で体重70キロにもなるというのは、すさまじい成長ぶりだ。人間と比べるとあまりに違いすぎるが、アフリカゾウは22カ月の妊娠期間で100キログラム前後の赤ちゃんを生むそうなので、それと同じくらいのオーダー。つまりは、哺乳類とくらべても遜色ない胎内での栄養供給能力を持っているといって間違いない。

 それにしても、この子宮ミルクはいったいなになのか。本当にミルクっぽい。映像でみているだけだが、それにしてもミルクっぽいのだ。

「本当にミルクです」
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「本当にミルクだと思いますよ。だって、においを嗅いでもミルクです。でも、成分はちゃんと分かっていません。きちんとサンプリングしたいんですが、生きてるやつに針刺してとるわけにもいきませんし、生まれてくる時に体にまとっているやつも、混ざりものなしに採取するのは難しいんです。でも、本当にミルクです」

 とにかく、哺乳類である我々がミルクと認識するものを胎内で出して、胎仔を育てるということが分かった。

 これにて、「繁殖様式のデパート」の解説、おしまい!

 といきたいところだが、実はさらに先がある。サメの繁殖生理学は本当に新しい分野で、どんどん新しいことが分かっている。

「まず、完全な卵黄依存というのはほとんどないのではないかという話が出ています。卵を外に産み落とすものでもその前に、子宮の壁から出る粘液のようなものを吸収して栄養にしているのではないかと。卵が胎内に留まる場合は、なおさらです。本当に母体からの栄養供給がないのか、卵黄依存といわれていたやつでも、そんなに単純ではないぞ、ということです」

ここまでくれば、納得するしかない。
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 卵黄か母体か、という分け方をした時、なにかそこに絶対的な線が引かれるような気がするが、実際は卵黄ももとはといえば母体が提供したものだ。親としてみれば、ちゃんと子どもが大きくなって元気に生まれてくれればいいわけで、最初にあげた卵黄で足りなければ、別の方法でさらに供給するのはやぶさかではなかろう。胎盤を作るのは効率的なやり方だし、別の卵を与えるのも(卵食)、ある意味、合理的だといえる。完全に卵黄依存と思われていたものの中にも、なにやらよくわからない分泌物で栄養補給をしている可能性があると言われても、ここまでくれば、そういうこともあるかもしれないと納得するしかない。

 さらに佐藤さん自身の研究で、エイだけではなく、サメにもミルクを飲んでいるらしいやつがいることが分かった。これはつい最近の発見で、論文投稿中とのこと。それも、ぼくたちがよく知っている、ホホジロザメ!

沖縄美ら海水族館「サメ博士の部屋」にあるホホジロザメの胎仔の標本。生まれてくるときにすでに130センチという巨大さ!
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「ホホジロザメは、胎内で卵食していると言いましたけど、最近、ミルクも飲んでいるのではないかと考えています。3年前に混獲されて死んだホホジロザメの標本をいただいて解剖しましたら、子宮にどろどろのミルクが入っていたんです。もう、頭の整理がつかないくらいびっくりしてしまいまして。それで、子宮の壁の組織標本を作ってみるとマンタそっくりなんですね。染色して観察すると、脂質を大量に分泌していることもわかって、間違いないだろうと」

 これはなんと言っていいか。卵を食べ、ミルクを飲み、至れり尽せりの保育である。また、使える手段は使える範囲で使っていくという生命の柔軟性を感じてならない。

「ホホジロザメは、生まれてくる時に130センチくらいになっていて、とても大きいんです。それを10匹とか抱えてるわけですから、ものすごいお母さんは大変ですよね」

 胎内の仔10匹に卵を食べさせ、ミルクを与える。1メートルを超える巨体に育て上げるのは、それだけで大変なことだが、それを10匹も同時に! 卵を食べさせ、ミルクを与え、かなりのコストをかけて、ホホジロザメの母親は胎仔を大きくするのである。