第41回 間違いだらけの「寝不足は太る」

 さて、最後に第三のステップ「食欲増進➡肥満」に移ろう。この当たり前のように思えるステップが実は疑わしい。睡眠不足と肥満をつなぐミッシングリンク問題なんだよ。「食欲が高まる」ことは事実としても、そのことが実際に「肥満になるほど食べる」という行動を引き起こすのにどの程度貢献しているかよく分かっていない。

 むしろ、食欲が高まったときにドカ食いしないように抑える情動制御力が弱まっていることが肥満リスクの主因ではないかという意見もある。健康を意識していてもいったん食べ始めると腹八分で抑えきれない、とかね。実際、睡眠不足に陥ると情緒面で不安定になったり、欲求不満を抑える力が低下することもよく知られているよ。

 先生! さっぱり分からなくなりました。今回のお話のオチはどうなっているんですか? 「睡眠不足➡摂食ホルモンの変化➡食欲増進➡肥満」という仮説は正しいのか正しくないのか白黒つけてください!

 正月早々混乱させてゴメンね(^_^; 正月太りにかこつけて睡眠と食のお話をしようと思ったんだけど少し脱線してしまったようです。2人の質問への回答は「まだ分からない」です!

 ま、ま、怒らないで。私が伝えたかったのは、「睡眠不足➡肥満」という関係が疫学調査で明らかになっても、その背景にあるメカニズムはとても複雑だということ。多くの実験データがあってもっともらしく見える摂食ホルモンの話も「因果関係」の視点から見直すとまだまだ肥満の(大きな)原因であるという証拠は不十分だということを知ってもらいたかったんだ。最近では摂食ホルモンのデータを拡大解釈して「よく寝ると痩せる」みたいなキャンペーンも見かけるけど、摂食ホルモン以上に証拠は不十分です。

 ということで、今年も睡眠にまつわる都市伝説に斬り込んでいくつもりです。本年もヨロシクお願いします。

 最後に今年の干支のサル君、今回のお話を聞いて一言お願いできるかな。

 私は寝正月派なので心配無用です。私たちサルは雑食ですが、木の実や葉っぱ、果実など植物性たんぱくを中心に、時折昆虫やカエルなどもいただくなどバランスが取れた食事をしていました。もちろん睡眠も大事ですが、肥満の原因はなんといってもカロリー過多と栄養の偏りで、大浜公園のサル仲間もまたその被害者です。まずは、食生活の見直しをする。その上で適切な睡眠習慣を一助としたらよいでしょう。ま、すべてはバランスの問題ですね。

 睡眠好きの方々にはちょっとキツいことを申し上げました。あ、でも、個人的には睡眠不足時に炭水化物や脂質に脳が反応しやすくなるという画像研究の話が面白かったですね。すなわち睡眠習慣が食の嗜好を変えるかもしれない。「You are what you eat.」という諺は日本語では「健康は食にあり」と訳されることが多いようですが、私は「食は文化と教養」だと思っています。それが睡眠に影響されるというのは驚きですね。

 サル君、あなたタダ者じゃないね……。

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大精神科学講座講師、同助教授、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授を経て、2006年6月より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。