第41回 間違いだらけの「寝不足は太る」

 私もどこかで読んだことがあります。摂食ホルモンというのは食欲を高めたり、下げたりするホルモンですよね。睡眠不足になると食欲が増進するホルモンが分泌されるとかカントか。

 お、ヒツジ君、よく知っているね。睡眠に関連する摂食ホルモンとして注目されたのが食欲を高めるグレリンと食欲を抑えるレプチン。たとえば、先のウィスコンシンの調査では睡眠時間が短い被験者ほどグレリンの血中濃度が高く、逆にレプチンの濃度が低いことも明らかになっているんだよ。

 でも研究データをよく吟味すると解釈に注意を要することが多いんだ。元論文を読んでいないためだと思うけど、記事の中には拡大解釈をして誤った結論に至ったり、効果がはっきりしていない対処法を薦めたりするものが少なくないようです。

 まさに睡眠の都市伝説ですね。

 そうなんだ。「睡眠時間と肥満」に関する研究データを紹介する記事や書籍の中にも典型的な都市伝説パターンに嵌まっているものが少なくないので、少し斬り込んでみようかと思います。

「睡眠不足➡摂食ホルモンの変化➡食欲増進➡肥満」の最初のステップ「睡眠不足➡摂食ホルモンの変化」についてはたくさんの実験データがある。一番有名なのはシカゴ大学の研究グループによる一連の研究で、たった2日間の短時間睡眠でも摂食ホルモンの変化が生じることを報告しているんだ。しかも睡眠時間が短くなるにしたがって食欲を抑えるレプチンの濃度が低くなるというスマートなデータを示したのでとても有名になりました。

同じ被験者に就寝時間(消灯時間)8時間で3日間、4時間で6日間、12時間で7日間過ごしてもらい、各就寝セッションの最終日に血中レプチン濃度(ng/ml)の日内変動を測定した。縦ヒゲはSEM(標準誤差)。実質的な睡眠時間は図の上段に書いてあるが、睡眠時間が短くなるに従ってレプチン濃度が低下していることが分かる。(Spiegelらのデータから作成)(画像提供:三島和夫)
[画像のクリックで拡大表示]

 なんだか睡眠不足で肥満になる話がホントっぽく聞こえてきた。

 え、もう納得させられたの(笑) 事はそれほど簡単じゃないよ、もう少し良く考えてみて。
 まず睡眠不足が体重に影響を与えるまでの期間について考える必要があるよね。これまでの疫学調査で明らかになっているのは年単位の長期的な影響についてだけ。数日〜数カ月程度の短期間の睡眠不足が体重に与える影響は確定していないよ。

 ふーん、じゃあ「年末年始の睡眠不足で正月太り」っていうタイトルの記事があったらまず疑ってかかるべきだな。でも長期の睡眠不足は体重増加と関係しているんでしょ。摂食ホルモンの影響が溜まって体重が増えるんじゃ……。

次ページ:摂食ホルモンと連動しない食欲も