第83回 睡眠科学でも超重要! 時計遺伝子の発見にノーベル賞

 眠くなる時刻はおおむね体内時計で決められているが、疲労が蓄積している日は恒常性維持のために早めに眠気を感じる。また睡眠の中でもノンレム睡眠(特に深いノンレム睡眠)は恒常性の影響を受けており疲労回復のために睡眠前半に集中して現れる。一方、レム睡眠は体内時計の影響が強く、明け方に最も現れやすくなる。

 このように大事な役割を果たしている体内時計だが、24時間周期の安定した生体リズムを生み出すメカニズムについては今回の受賞対象となった時計遺伝子が発見されるまで全く不明であった。

 時計遺伝子とは概日リズムの形成に関わる遺伝子につけられる総称である。正確な定義がないのだがしばしば話題にあがる「関脇クラス」以上の時計遺伝子だけでも十種類以上ある。

 時計遺伝子の中で最初に見つかったのが、今回受賞した3名が(正確には2グループが)独立に発見したPeriod(ピリオド)で、1984年のことである。Periodは現在でも最も大事な時計遺伝子の1つとして横綱を張っている。さらにマイケル・ヤングはその後Timeless(タイムレス)という別の時計遺伝子も発見している。Periodの発見以降に体内時計のメカニズム研究が爆発的に進展したことを考えれば今回の3名の受賞に誰も異論はないだろう。

 時計遺伝子によって体内時計が保たれる仕組みはこうだ。遺伝子は生物に欠かせないタンパク質を合成するための設計図である。時計遺伝子から作られるタンパク質は時計タンパクと呼ばれ、一定量以上溜まると今度は時計遺伝子に働きかけて自身の合成を抑制する。だが、細胞内の時計タンパク量が一定以下になると再び合成が始まる。このようなメカニズムで生じる時計タンパクのアップダウン(転写サイクルと呼ぶ)の周期が約24時間なのである。

 Periodは異常な概日リズムを示すショウジョウバエの遺伝子解析から見つかった。そのショウジョウバエを作り出して解析を進め、遺伝子の存在する染色体をかなり絞り込んだのがカリフォルニア工科大学のベンザー博士とコノプカ博士である。その功績は今でも高く評価されているが残念なことに2人とも最近亡くなっている。彼らが存命であれば受賞者リストも変わったかもしれない。

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大精神科学講座講師、同助教授、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授を経て、2006年6月より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。これまで睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者を歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。