第81回 不安で眠れない夜に​も意味がある​ 嫌な記憶を弱める不眠

「数学の公式や英単語はなかなか覚えられないのに、一目惚れした女の子の名前やメールアドレスは一発で覚える」

「仕事で訪れた街の様子をほとんど思い出せなくても、宿泊先のホテルのエレベーターの故障で閉じ込められたときの記憶だけはっきりと覚えている」

 あるある、とうなずいた方も多いと思うが、一般的に強い情動(感情)を伴うエピソードほど鮮明に記憶に留まることが知られている。

 私たちは日々多くの出来事に遭遇するが全てを記憶していては脳のキャパを超えてしまう。通勤途中の何気ない風景、電車で向かい合った乗客の顔、ツマラナイTV番組など忘れても支障がないエピソードは数時間ほどで記憶から消えてしまう。

不安や恐怖、歓喜などの強い情動にともない活発になる脳の「扁桃体」と記憶固定に関わる「海馬」の相互作用によって情動記憶が作られると考えられている。(イラスト:三島由美子)
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 一方、記憶の一部は長期間にわたって残る。大事なエピソードを取捨選択し、長期間、時には生涯にわたって持続する長期記憶へと変える役割を果たしているのが脳の中にある海馬である。この脳内作業は「記憶の固定」とも呼ばれる。強い恐怖や喜びなどを伴うエピソードの場合は、情動に関わる脳内回路が海馬に働きかけて記憶の固定作業を促すことが分かっている。情動に結びついた確固たる記憶であることから情動記憶とも呼ぶ。

 この情動記憶、時には忘れたくても忘れられない忌まわしい記憶となって人を悩ますこともある。「心的外傷後ストレス障害(Post-Traumatic Stress Disorder、PTSD)」はその代表である。

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