第79回 冬季不眠とは何か 体内時計の「南極物語」

 彼らはもちろん腕時計は持っていたし、外部との連絡もとっていた。また、500〜1000ルクスの照明の下で生活していたようだが、これは一般家庭のリビングの明るさである。健康な人であれば、この程度の強さの光があれば体内時計は24時間周期に維持される。だとすれば、体内時計は遅れるにしてもそのズレは他の越冬隊員とそう変わらず、4時間遅れ程度で固定したはずである。ナゼ、彼らはフリーラン状態になったのか?

 どうやら、越冬隊員のように「気合いを入れて時刻通りに寝起きする」つもりがなかったためと思われる。彼らは海洋生物学者、電気技師、医師など理系の職人肌で、時の経つのも忘れて日々自分の関心のあるテーマに打ち込んでいたのではなかろうか。

 人は光のみにて同調するに非ず。

 人の睡眠や生体リズムは確かに光の助けを借りて24時間周期の昼夜サイクルに同調(時刻調整)する。しかし、それは毎日定時に起きて同じ時刻に光を浴びることで初めて達成される。好きな時間帯に寝起きができるならば、ややもすれば寝坊をし、光を浴びるタイミングも遅れ、結果的に体内時計は遅れがちになる。夏休みの大学生を見れば一目瞭然である。

 それでも大学生は明るい光に囲まれ、日中に友人づきあいもあるため、ある程度のところでズレは止まる。しかし、スケジュールの自由度が高く、1日中暗く、孤立した環境下ではどうだろうか。多くの人が今日よりも翌日は体内時計がやや遅れ、翌々日はさらに遅れていくだろう。

 暗い極地であっても、体内時計を大きく狂わせないためには光だけではなくスケジュールを守る気持ちも大事のようだ。これは自宅に引きこもりがちの人にも言えることである。タロとジロも極夜にはフリーランしていたのだろうか。いや生きるのに必死で、安穏と寝坊などしていられなかっただろう。

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大精神科学講座講師、同助教授、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授を経て、2006年6月より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。これまで睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者を歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。